#介護って(2)... #チュージングワイズリー #賢い選択運動 #飲んでもムダな薬リスト #耐性菌
風邪を引いたら抗生物質、年に一度は健康診断を受けるべき――このような医療の常識が、近年見直されつつある。
きっかけは、本当に必要十分な医療を提供しようという運動「チュージング・ワイズリー(=賢い選択)」。
この運動が始まった経緯とともに、日本で行われている過剰な投薬・治療・検査を検証したシリーズがあった。
■1年がかりの「念のため」の検査
ある80代女性の実話。
風邪をこじらせて、かかりつけの開業医にかかった女性は、胸のレントゲン写真を撮ることになった。その結果、肺炎ではなかったが、肺に何か気になる異変が見つかった。
それを見た開業医は、「念のためCTを撮って、詳しく調べたほうがいい」と伝えた。
そこで女性は、紹介状をもらって、大学病院で追加の検査を受けることになった。
大学病院でCTを撮ると、やはりいくつか正常と異なる変化が見られた。
医師は彼女に、「3~4カ月ごとにCTを撮り、経過観察が必要です」と伝えた。
さらに、「念のため」と言われ、エコー検査も受けることになった。
すると甲状腺に小さな異変が見つかったので、女性は針を刺して組織を採り、細胞を調べる生検も行うことになった。
こうして女性は、高齢であるにもかかわらず、何度も大学病院に通うことになった。
最後には「どちらも心配ありません」と診断されたのだが、その検査結果をもらうのに、丸1年かかったのだ。
肺炎かどうかを確認するのに、最初のX線検査は必要だったかもしれない。
だが、その後の検査はどこまで必要だったのだろうか。
最終的に「異常なし」のお墨付きはもらえたが、女性は1年にわたり「重い病気かもしれない」と不安な日々を過ごすことになった。
それだけでなく、度重なる「念のため」の検査によって、決して安くない医療費を本人と国民が負担することになったのだ。
佐賀大学名誉教授で、現在、京都にある七条診療所の所長を務める小泉俊三医師(総合診療医)はこう話す。
「病気を見逃すと責められるかもしれないので、医師には『念のために検査をして、病気を否定しておきたい』という心理が働きます。
また、女性の病歴を把握できていれば、追加の検査はしないという判断ができたかもしれませんが、大学病院の医師は忙しくて、ゆっくり問診をする時間が取れません。
そのため情報不足を補おうと、つい検査をオーダーしてしまうのです」
検査が無暗に増えてしまう背景には、そんな医師側の事情があるという。
こうした検査が、過剰な投薬や手術につながることも少なくない。
たとえば、別の目的で行った血液検査で、ついでに調べた項目に異常値が見つかり、中性脂肪値やコレステロール値を下げる薬を飲むようになった人もいるはずだ。
また、この女性のケースでは、CTで見つかった異変が「早期の肺がんの恐れあり」と診断されていたら、「念のために」肺の一部を切り取る手術を受けていた可能性すらあった。
■「賢い選択」という運動
実は、世界中の医療界で、こうした過剰な検査や治療が必ずしも患者の幸せにつながっていないとして、見直しの機運が高まりつつある。
なぜなら様々な研究で、検査や治療の効果が期待ほどではなく、極めて限定的であることを示すエビデンス(科学的証拠)が積み重なってきたからだ。
つまり、検査をたくさん受けて、薬をたくさん飲んだからといって、健康寿命(健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間のこと)がのびるわけではないのだ。
そうした新しい知見にもとづき、意識の高い医師たちが、現在行われている検査や治療が過剰になっていないかを検証し、本当に必要十分な医療を提供しようという運動をはじめた。
それが、「チュージング・ワイズリー(Choosing Wisely=賢い選択)」運動だ。
日本でも昨年10月、東京で医療関係者を集めたキックオフセミナーが開催され、小泉医師を発起人代表として任意団体「チュージング・ワイズリー・ジャパン(Choosing Wisely Japan)」が正式に発足した。
この運動が最初に始まったのはアメリカだ。
チュージング・ワイズリーのホームページ(http://www.choosingwisely.org/)によると、テキサス大学医学部ガルベストン校医療人間学研究所のハワード・ブロディ医師が、2010年に「ヘルスケア改革のための医師の倫理的責任」という論説を医学専門誌に発表したのがきっかけだった。
その中でブロディ医師は各専門医学会に、その分野で日常的に行われているが、患者に意義ある恩恵をもたらしていない検査や治療を5つずつリストアップするよう呼びかけた。
そして2012年4月、「米国内科認定機構(ABIM)財団」と米国の消費者団体「コンシューマー・リポート」が、9つの学会が出した「5つのリスト」を公表。
本格的にチュージング・ワイズリーの運動をスタートさせた。
2017年3月現在、参加学会は76まで増え、リストの数は全部で約450項目にも及んでいる。
また、各学会とコンシューマー・リポートによる患者向けのリスト約120項目も公表されている。
その中から、日本の医療でもよく行われている項目をピックアップしたのが、次ページの表だ。
■風邪で抗生物質を飲んでも意味がない
まず、投薬・治療に関する項目を見てみよう。
いくつもの学会が取り上げているのが、「抗生物質(抗菌薬)」だ。
「風邪やインフルエンザなどの呼吸器疾患」「子どもの耳の感染症」「結膜炎」「尿道カテーテル」などに対して、その使い過ぎが戒められている。
読者の中にも風邪の症状で医療機関にかかり、抗生物質を処方された経験のある人が多いのではないだろうか。
あるいは自ら抗生物質を求めて医師にかかる人も多いだろう。
だが、米国感染症学会による「大人の風邪、インフルエンザ、その他の呼吸器疾患」の項目には、次のように書かれている。
〈のどの痛み、せき、副鼻腔の痛みなどがあった場合、抗生物質を飲みたいと思うかもしれません。
気分が悪いのですから、早く良くなりたいのはわかります。
しかし、抗生物質はほとんどの呼吸器感染症には役立ちません。
それどころか、害になることすらあるのです〉
その理由はこうだ。
〈抗生物質は細菌によって引き起こされた感染症と戦う薬です。
しかし、ほとんどの呼吸器疾患はウイルスによって引き起こされます。抗生物質は、ウイルスには効きません〉
効果がないだけでなく、抗生物質は体内を殺菌してしまうため、善玉菌と悪玉菌のバランスを崩してしまう。
そして、吐き気、嘔吐、重度の下痢、膣感染症、神経損傷、靱帯断裂、生命を脅かすアレルギー反応などを引き起こす。
こうした抗生物質の副作用のために、たくさんの人が救急外来を訪れている。
さらには、抗生物質を多用することによって、抗生物質が効かない耐性菌が家族や友人にも広がってしまうと警鐘を鳴らしている。
■高齢者に害のある薬
日本でも、抗生物質の多用によって多剤耐性菌(MRSAなど)が発生し、大学病院など医療機関で集団感染が起こり、死亡者が出たケースが複数報道されている。
そうした状況への危機感から厚生労働省は3月6日に、軽い風邪や下痢の患者に対して、抗生物質の投与を控えるよう呼びかける手引書をまとめた。
耐性菌への対策を取らなければ、2050年には、世界で年1000万人が亡くなるとも試算されている(厚生科学審議会資料「抗微生物薬適正使用の手引き」第一版(案))。
医師も患者も、安易な抗生物質の使用は厳に戒めるべきだ。
他にも、多くの人が飲んでいる薬があげられている。
たとえば、「コレステロール低下薬(スタチン)」だ。
動脈硬化にともなう心血管疾患を予防する目的で処方されるが、これに対して米国慢性期医療学会が、「75歳以上の人にとっては、心臓病の症状がない限り、スタチンの服用はよくないかもしれない」と指摘している。その理由は次の通りだ。
〈コレステロール値の高い高齢者はたくさんいます。彼らの主治医は心臓病を予防するために、しばしばスタチンを処方します。
しかし、高齢者では、コレステロールが高いと心臓病や死を招くという明確なエビデンスはありません。
実際、いくつかの研究は逆の事実を示しています。
コレステロール値が最も低い高齢者のほうが、現に最も死亡リスクが高いのです〉
若い人たちに比べると、高齢者のほうがスタチンによる深刻な副作用を被りやすいとも指摘している。
筆頭にあげられているのが筋肉への副作用で、筋肉痛や筋肉衰弱、まれに重い筋肉障害が起こることがある。
さらに高齢者では、転倒、記憶障害、混乱、吐き気、便秘、下痢などを引き起こすこともある。
日本でも高齢になるほど「コレステロールを下げる薬」の服用率があがり、70歳以上ではおよそ4人に1人(24.8%)が服用している(平成26年「国民健康・栄養調査」厚生労働省)。
しかし、心臓病の多い米国人でさえ、心筋梗塞や脳卒中などを起こしたことのない75歳以上の人には、スタチンは不要とされているのだ。
日本人の場合、不要な人はもっと多いと考えられる。
■高齢者の睡眠薬服用には死亡リスクも
また、高齢者に多い睡眠薬の服用に対しても、注意喚起がなされている。
チュージング・ワイズリーの「高齢者の不眠や不安に対する睡眠薬」の項目によると、米国でも3分の1近くの高齢者が睡眠薬を服用しているという。
高齢になるほど眠れる時間が短くなり、不眠に悩む人が増えるので、日本でも睡眠薬を飲んでいる高齢者は多い。
しかし、米国老年医学会は、「通常、高齢者は最初に睡眠薬以外の方法を試すべきだ」と警鐘を鳴らす。その理由として、次のように書かれている。
〈多くの睡眠薬の広告が、睡眠薬は完全で安らかな夜の眠りに役立つと宣伝しています。
しかし、様々な研究によると、これは現実の生活では真実とは言えません。
平均的に見て、これらの薬のうち一つを服用している人は、薬を飲んでいない人に比べて、わずかに長くよく眠れているだけです〉
効果が小さいだけでなく、睡眠薬には深刻な、死ぬことさえある副作用もある。
若い人より高齢者のほうが、成分が長く体内に留まりやすく、薬の影響を受けやすいからだ。
睡眠薬は錯乱や記憶の問題を引き起こすことがあり、それによって転倒や大腿骨骨折のリスクが2倍以上になる。
それがきっかけで入院したり、死亡したりすることもよくあり、交通事故のリスクも高くなる。
この項目では、「よりよい睡眠のためのヒント」も添えられている。
よく眠るには、活動的な生活が大切だが、就寝前の数時間は活発な動きは避けること。
習慣を守って週末でも毎日同じ時間に起床し、就寝すること、就寝前には食べないようにして、食後3時間以上空けてから眠ること。
午後3時以降はカフェインを避け、アルコールを控えること、などのアドバイスだ。
■健康診断は益より害をなすことが多い
こうした過剰な投薬を受けるきっかけになる大きな要因の一つが、過剰な検査だ。
チュージング・ワイズリーでは、検査の受けすぎについてもリストで警鐘を鳴らしている。
たとえば、「健康診断(Health Checkups)」だ。
日本では、学校や職場で義務化されており、多くの人が年に1回は健康診断を受けたほうがいいと思い込んでいる。
しかし、米国総合内科学会によると、「健康な人に毎年の身体検査はたいてい不必要で、益よりも害をなすことが多い」というのだ。
〈あなたの体のために、主治医は血液や尿、心電図といった検査をオーダーするかもしれません。
時折、これらの検査が、リスクを持たない健康な人に行われることがあります。
しかし、毎年の健康診断の有効性を調べた研究がたくさんありますが、概して、健康維持や長生きにはつながらないようです。
また、入院の回避や、がん、心臓病による死亡の予防にはほとんど役立ちません〉
■健康診断のデメリット「偽陽性」
健康診断には、「偽陽性」の問題もあると指摘している。
偽陽性とは、実際には問題がないのに「異常」とされることを指し、それによって不必要な追加の検査や治療が行われてしまうことがある。
たとえば、血液検査で偽陽性があった場合、不必要な生検が追加される。
また、心電図の解釈が不正確だった場合、放射線被ばくを伴う別の検査(筆者注・心臓CTなど)が行われる。
さらには、「検査を受けた100人のうち2人が、心臓発作や死亡を招く処置を受けることになるかもしれません」とまで書かれている。
このような健康に対する悪影響だけでなく、チュージング・ワイズリーでは、過剰な検査や治療による医療費の浪費に対しても、警鐘を鳴らしている。
この項目では、米国の社会福祉制度が必要性の低い健康診断に、年間3億ドル(約330億円)をつぎ込んでいると指摘。
さらに、追加の検査や治療のために10億ドル(約1100億円)以上が浪費されていると書かれている。
■もちろん、検査が必要なケースもある。
「体調が悪い」「病気の症状が出ている」「慢性の症状が続いている」「新しい薬の効果を調べる」「喫煙や肥満などのリスクをもっている」といった場合は、検査をしたほうがいいとチュージング・ワイズリーも勧めている。
逆に言えば、こうしたケースを除いて、ふだん健康的な生活を送れているならば、定期的に健康診断を受ける必要はないということなのだ。
他にも、「骨密度の検査」「腰痛に対する画像診断」「頸動脈の検査」「喫煙者に対する肺がんのCT検診」「PSA検査(前立腺がん検診)」などが、過剰になりやすい検査としてリストにあがっている。
日本でもよく行われている検査なので、読者の中にも受けた経験のある人が多いはずだ。
もし、こうした検査を医師に勧められたら、どれくらい役に立つものなのか、そしてメリットだけでなく、その検査で異常が見つかった場合、どんな追加の検査や治療を受ける可能性があり、それによってどんな害がありうるのか、しっかり説明を受けてから判断するべきだろう。
このように、米国のチュージング・ワイズリーのホームページには、ふだん私たちが何気なく受けている医療の中に、ムダが潜んでいることを教えてくれるリストが掲載されている。
患者向けのリストはわかりやすく書かれているので、英語が読める人はトライしてみるといいだろう。
各リストの詳しい内容は、写真付きのパンフレットとしてダウンロードすることもできる。
英語が苦手な人は、このリストのうち48項目(2017年3月現在)が、有志の医師や医学生らの手によって翻訳・監修され、「メディカルノート」という医療ウェブメディアのサイトに掲載されている(例:抗菌薬が必要なとき、必要ではないとき
[https://medicalnote.jp/contents/150722-000017-IOJPUW])
「Choosing Wisely Japan」のホームページにリンクされているので、関心のある人はぜひ読んでみてほしい。
■日本発、5つの「推奨しない医療」リスト
日本のチュージング・ワイズリー・ジャパンによる独自のリスト作りはこれからだが、2015年に地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問の徳田安春医師ら総合診療系指導医のグループが、推奨しない検査などについて5つのリストを作成している。
その内容は次の通りだ。
1、症状のない成人に対するPET-CTを使ったがん検診
2、症状のない成人に対する腫瘍マーカーを使ったがん検診
3、症状のない成人に対するMRIを使った脳検診
4、とくに異常のない腹痛に対する習慣的な腹部CT
5、医療提供者の利便性のために尿道カテーテルを留置すること
1番目、2番目のPET-CTや腫瘍マーカーによるがん検診は、民間の人間ドックなどでよく行われているものだ。
これらの検診で死亡率が下がるというエビデンスはなく、高額な料金で行われていることに、以前からがんの専門医などから批判の声があがっている。
また、3番目も「脳ドック」と称してよく行われているが、これも「リスクの低い無症候性脳梗塞や脳動脈瘤を見つけて患者を不安にさせるだけ」と疑問視する専門家が多い。
4番目の腹部CTや5番目の尿道カテーテルも、医療現場で必要性を吟味しないまま行われていることが多いと指摘されるものだ。
これら5つに限らず、日本でもムダな検査や治療はたくさんあげられるだろう。
今後、各学会がこの運動に呼応し、5つのリストが増えていくことを期待したい。
“かぜ”の治療が世界を救う
わずか10分 グラム染色って?
知ってますか?恐ろしい推計があるんです。
対策をとらないとおよそ30年後、”1000万人が死亡”。
その対策が求められているのは薬が効かない「耐性菌」。
抗生物質など抗菌薬を繰り返し使う中で、細菌自体が変化し出現することがあるんです。
世界を救うために、いま、”かぜ”の治療から変わろうとしています。
2017年6月13日
奈良県橿原市にある「まえだ耳鼻咽喉科クリニック」は、かぜや中耳炎などの患者が訪れる、一見普通のクリニックです。14年前、院長の前田稔彦さんが開業しました。
ここでは抗菌薬を極力処方しないよう、診療に「#グラム染色」と呼ばれる検査を取り入れています。
患者の鼻水やたんを、特殊な染料など4種類の液体を使って染めたあと、顕微鏡でのぞきます。
10分ほどで、細菌が原因かを推定することができ、検査結果をもとに、抗菌薬を処方するかどうか、どの抗菌薬を処方するかを判断します。
出発点 自身の治療への疑問
グラム染色を導入したのは、開業してまもない13年前。
抗菌薬が効きにくい耐性菌の問題を知ったからでした。
病状が悪化した時の責任や、患者が来なくなってしまうおそれなどから、患者や保護者に求められればもちろんのこと、かぜや中耳炎の患者のほとんどに、抗菌薬を処方していたみずからの診療に疑問を持ったからでした。
前田医師は「中耳炎の患者さんで、一見治った感じになっても、すぐに再発したり、抗生物質を次々に変えても、全く効かなかったりという事例が散見されました。中耳炎なら命に関わりませんが、例えば肺炎だと命に直結する。
抗生物質は本当に必要な患者にだけと思うようになった」と当時を振り返ります。
実は日本では、抗菌薬の大部分が入院患者にではなく、かぜなどで訪れる外来患者に処方されているんです。
ウイルスか?細菌か?それが大事
検査の画像は、患者にも見せています。
取材に訪れた日、のどの痛みと微熱、黄色い鼻水が出るという、40代の男性が診察を受けに訪れました。
検査したところ、画像には白血球は見られるものの、問題となる菌は見つかりませんでした。
前田医師は、細菌ではなくウイルス性のかぜと判断し、男性に「抗生物質は必要ありません。炎症を抑える薬で様子を見ていきましょう」と説明しました。
実は、かぜは、細菌よりもウイルスが原因であることが多く、しかも抗菌薬は、もともとウイルスには効かないのです。
男性は「細菌が原因でないことがわかって良かったです。むだに飲む薬がなくなっていいと思う」と話していました。
細菌がいたって元気なら処方なし
細菌が原因だと推定されても、患者が元気であれば、抗菌薬を処方せず様子を見ます。
この日、鼻水が長引き、少し咳が出る8か月の赤ちゃんが来ていました。検査をすると、「インフルエンザ菌」と呼ばれる細菌が原因の可能性が疑われました。
「インフルエンザ菌」は、まれに乳幼児に敗血症や髄膜炎を起こすこともある細菌です。
前田医師は、母子手帳でインフルエンザ菌による髄膜炎を予防するワクチンを打っていることも確認したうえで、次のように説明しました。
「菌がいましたけど、前回よりましな気がするし、そんなに悪くなっていないので抗生物質を出さずに、鼻水を吸っていきます。熱が出てきたとか、中耳炎になったとか、悪化した場合は、抗生物質の出番になってくるかと思います」
どうしても必要な時は…
さらに、抗菌薬が必要な場合でも、耐性菌をできるだけ生まないよう薬を選んでいます。
同じ日、13歳の男の子が、とてもしんどそうな様子で受診していました。
39度を超える熱があり、鼻水や咳、のどの痛みを訴えていました。
検査の結果見えたのは、「肺炎球菌」。
前田医師は、肺炎を疑い、男の子は呼吸器に持病もあることから、肺炎球菌を“ターゲットにしぼった抗菌薬”を処方することにしました。
抗菌薬を途中で飲むのを止めたりすると、生き残った菌が耐性菌になるおそれがあるため、前田医師は「ペニシリン系の抗生物質を出しますので、量が多いけど頑張ってしっかり飲んで。帰ったらきょうの分、すぐ飲んで下さい」と、忘れずに飲むように指導しました。
抗菌薬6分の1に
抗菌薬の処方を慎重に行ってきた前田医師。
抗菌薬の使用量は、12年間で6分の1に減り、治療期間も短縮したと言います。
前田医師は「こういう小さなクリニックですが、特にかぜに関しては、最前線の病院です。一番診る数も多いですし、少しでも耐性菌の脅威を減らすために、極力、抗生物質を出すのを控えて、診療していくことが大事だと思っています」と話しています。
厚労省”かぜの多くは抗菌薬不要”
厚生労働省が今月公表した手引きには、乳幼児以外、小学生以上の子どもと成人の、かぜと下痢への抗菌薬の対応について書かれています。
その中には、かぜには多くの場合、抗菌薬は不要であることが明記されています。
また、抗菌薬が必要なのは、どのような状態の時なのか、そして必要な場合も、耐性菌をできるだけ作らないために、どの抗菌薬を使うべきかが、細かく記されています。
前田医師が実践してきた内容が盛り込まれているのです。
手引きは、外来診療を行う医師向けに書かれていますが、細菌とウイルスの違いや、なぜ不要な場合には抗菌薬を飲まない方がいいかなどについて、患者の私たちにも分かりやすく説明されています。
対策とらねば1000万人死亡
イギリスの研究機関は、耐性菌に対して、何も対策がとられなければ、2050年には、世界で年間1000万人が耐性菌によって死亡すると推計しています。
その数は、がんで死亡する患者より多いというのです。
耐性菌で死亡するというのは、どういうことなのか?。
なかなかイメージできないかもしれませんが、例えば、何かの手術を受けたり、がんなどの治療で免疫力が低下したりした際に、耐性菌による肺炎などを起こすと、使える薬がほとんどないために、命に関わることになります。
耐性菌によって、これまで治せたはずの病気が治せなくなるおそれがあるのです。
私たちが気をつけること
いざという時に使える抗菌薬がないということにならないためにも、私たち自身も気をつけるべきことがあります。
それは、医師に自分から「抗菌薬をください」と求めないことです。
患者から求められると、必要がないと思っても処方してしまうという医師もいるからです。
また、家に残してあった抗菌薬を、自分の判断で飲んだり、他の人にあげたりしてはいけません。
抗菌薬は、医師の指示に従って、必要な時だけ使う。
安易に頼らないということを、私たちも心がけるべきだと思います。世界を救うためにも。
[HD] Min Ah (Girls Day) - Only Once MV With Lyrics (Jungle Fish 2 OST)
0コメント