特別養護老人ホーム経営で黒字と赤字とを分けるポイントは「利用率」... #赤字に陥っている特養は約3割超!!!

特別養護老人ホームの経営で、黒字と赤字とを分ける最初のポイントは「#利用率」にある。

また介護報酬改定に対応し、収益の減少幅を小さく抑えることが経営上の重要ポイントに―。

2017年2月1日|医療・介護行政をウォッチ

 

福祉医療機構(WAM)が2017年1月27日に公表した、2015年度の「特別養護老人ホームの経営状況について」から、こういった点が明らかになりました

(WAMのサイト

東京商工リサーチによると、2016年の「老人福祉・介護事業」の倒産は108件に達しました。最多だった前年を上回っており、2016年の年間倒産数は過去最悪の結果となりました。介護サービスは医療などと並び私たちの生活になくてはならない社会インフラです。介護事業者の倒産は、私たちの生活にも大きな影響を与えます。


赤字施設は施設・短期入所利用率が大きく低下

 2015年度には全体でマイナス2.27%という厳しい介護報酬改定が行われたため、特養ホームの経営状況も厳しさを増しています。

従来型の34%(前年度に比べて3.7ポイント増)、

ユニット型の29.5%(同3.9ポイント増)が赤字決算となりました。

施設の規模別に赤字施設割合を見ると、

▽29人以下では47.9%

▽30-49人では32.6%

▽50-79人では32.3%

▽80-99人では25.4%

▽100人以上では21.6%

―となっており、小規模の施設で経営状況が特に厳しくなっています。

この背景として「人件費率の高さ」や「1つの空床の影響の大きさ」があるのではないか、とWAMは見ています。


赤字施設と黒字施設の違いをより詳しく見てみると、

黒字施設のほうが

▼定員規模が大きい

▼入所利用率が高い

▼短期入所利用率がとても高い

―といった点が浮かんできます。

黒字施設は赤字施設に比べて、入所利用率で1.8ポイント、短期入所利用率で9.3ポイント、特養・短期入所利用率で3.2ポイント高くなっています。



このためWAMは、「赤字施設においては、まず施設全体の利用率を向上させることによって収益を確保する」ことが必要と強調しています。


黒字施設、加算取得や利用率維持でマイナス改定の影響を小さく抑えている

 次に、2014年度には黒字であったが、15年度に赤字に転落してしまった施設について見てみると、

黒字を維持している施設に比べて

▼施設介護料収益(特養本体部分の収益)の減少幅が大きい

▼居宅介護料収益(短期入所などの収益)の減少幅が大きい

―点が注目できます。


 収益減少の背景には、利用率の低下(黒字施設では短期利用率が2.3ポイント低下にとどまるが、赤字施設では6.1ポイントも低下した)ほか、「介護報酬のマイナス改定」という要素もあります。

WAMでは、「介護報酬マイナス改定による影響を、新規加算取得や利用率維持でどれだけ抑えられたか」が黒字・赤字の分岐点になったとみています。





さらにWAMでは、「2015年度改定への対応、すなわち『制度改正の趣旨に沿った経営努力』が、直接的に結果に結びついている」と指摘し、今後の改定に対して着実に対応し、社会の要請に応えていくことが特養ホームに求められている、と結んでいます。


 2018年度には、介護報酬と診療報酬の同時改定が行われるとともに、新たな介護保険事業(支援)計画と医療計画が同時にスタートします。


いわゆる団塊の世代(1947-49年生まれの人)がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、医療・介護ニーズが急速に高まることが予想され、

同時改定でも、この点を重視した「病院・病床の機能分化・連携の推進」や「地域包括ケアシステムの構築」が進められる見込みです。


介護サービス事業者や介護施設の中には「急性期医療は関係ない」と思いがちなところもあるでしょう(急性期医療側でも同様)。


しかし、例えば急性期病棟を維持するためには、介護施設などとの緊密な連携が不可欠であり、特養ホームにとって急性期病院は「重要なクライアント」の1つなのです。


医療・介護関係者は、2018年度改定などに向けた動きについて、自施設・サービスに関係する部分だけでなく、あまねく目を通すことが重要です。


赤字に陥っている特養は約3割超!赤字化の背景には介護報酬改定と“待機者減”があった!?

2017/02/15


赤字である特養の割合は前年度比4.1ポイント増。特に、小規模特養は苦境にある

独立行政法人福祉医療機構は昨月、「平成27年度特別養護老人ホームの経営状況について」を公表しました。

分析の対象は、開設後1年以上経過している特養。

サンプル数は4,175施設(従来型1,768施設、個室ユニット型1,936施設、一部個室ユニット型471施設)。


このデータによると、赤字の特養は31.4%でした。

赤字施設の割合は前年度から4.1ポイント上昇しています。

従来型で34.0%(3.7ポイント増)、ユニット型29.5%(3.9ポイント増)となっています。

特養全体で見ると、前年度より経営状況は厳しくなっていると言えるでしょう。


さらに、定員規模別で見ると「29人以下」では47.9%もの特養が赤字に陥っています。

「30人以上49人以下」「50人以上79人以下」で約3割、「80人以上99人以下」「100人以上」で約2割と規模が大きくなるにつれて、赤字割合が低下する傾向にあります。

「29人以下」の特養は、平均の開設経過年数が4.1年と、開設後間もないケースが多く、地域での認知度の低さが赤字化の要因のひとつと考えられます。


2014年度 特養 定員規模別の経営状況

しかし、開設後年数がある程度経過しても「29人以下」の特養の赤字施設割合は約15ポイントしか低下しておらず、認知度だけに問題があるとも言い切れません。

むしろ、入所者10人あたりの介護職員数がほかの定員規模の特養と比較して多く、運営規模に対して人件費率が高くならざるを得ないことや1床の空きが収益に与える影響が相対的に大きいことなど構造上の問題が大きいと見られます。


「加算の有無」「利用率の低さ」「運営効率の悪さ」が赤字化の主要因

ここまで特養の赤字施設割合を見てきました。次に、赤字になる理由について解説します。データを読み解くと、3つの理由が見えてきます。

ひとつは、「加算の有無」です。

黒字特養は、赤字特養と比較して取得している加算が多く、収益が上がりやすい構造となっています。

人員配置などによって、さまざまな加算が用意されており、大規模特養ほど取得しやすい状況にあるのです。


次に「短期入所(ショートステイ)利用率の低さ」です。

先の福祉医療機構が調べたところによると、赤字特養の特養・短期入所率(合算)は90.8%である一方、黒字特養のそれは94.0%となっており、3.2ポイントの差があります。


最後に「入所者10人当たりの従事者数の多さ」です。

この数字が低ければ低いほど、効率的な人員配置がなされていると見ることができます。

赤字特養の従事者数は7.35人であるのに対し、黒字特養は6.75人。0.53人の差があると気づくでしょう。

赤字特養は、運営効率が悪いと見ることができます。

この結果、企業の利益にあたる「サービス活動増減差額」は、赤字特養と黒字特養の間で約4,000万円もの差が出ています。

さらに、独立行政法人福祉医療機構は、2015年度に赤字に転落してしまった特養に関し、その理由について言及。

同機構は、赤字に転落した特養は黒字特養と比較して施設介護料収益および居宅介護料収益の減少幅が大きいと分析しています。


収益減少の背景には、利用率の低下だけでなく、介護報酬のマイナス改定もあると見られます。

黒字施設は、介護報酬のマイナス改定を新規加算取得や利用率維持で抑えるだけでなく、事務費削減など経費節減にも積極的に取り組んだようで、独自に行った経営努力が実を結んだ形です。


入居条件が厳格化されたことで、特養の待機者は減り始めている?

特養の待機者数は、現在約52万人(2014年3月現在)とも言われますが、一部地域では待機者減が鮮明となってきました。

2015年4月から特養の入居条件を原則「要介護3」とすることが介護保険法の施行規則に明記され、申し込み者が減ったためです。

東京都高齢者福祉施設協議会が東京都内の特養を対象にアンケート調査(対象は457施設で242施設から回答があった。

調査期間は2016年1~2月)を行ったところ、1施設あたりの平均待機者数は2013年11月の360.0人から2015年同月には296.3人と17.7%減少していることがわかりました。

特養の待機者が最も多い東京都だけでなく、ほかの地域でも同様の傾向が見られるようになっており、特養関係者の頭を悩ませています。

待機者が減るとスムースに入所が進まず、空きが出ることも。東京都高齢者福祉施設協議会によると、95の特養で「稼働率が下がった」と回答がありました。

2015年4~10月の平均稼働率は94.9%で、都内で2,200人分のベッドが空いていた計算になります。


特養の入居条件が厳格化されたことで、本当に必要な高齢者が入居申し込みできない状況になっているという声も上がっています。

たとえ要介護2であっても、高齢者の生活ぶりを個別に観察し、必要に応じて入居条件を弾力化すべきと考える向きもあります。


また、待機者減の背景には介護保険の利用者負担増もあると予想されます。

政府は、一部のサービス利用料を1割から2割負担としただけでなく、特養の入居費や食費の軽減措置も削減しました。

自己負担増を避けるため、あえて特養には申し込まず、在宅を選ぶケースも相当数あると見られます。


経営安定化のために、介護報酬改定に対応する必要がある

独立行政法人福祉医療機構が実施した「平成27年度介護報酬改定等の影響に関するアンケート調査」によると、全体のおよそ3割の特養が介護職員処遇改善加算の対象となる介護職員以外の職員に対しても処遇改善を実施していることが明らかになりました。

つまり、相対的に人件費が増加しており、これが特養赤字化の一端である可能性も指摘されています。


労働力人口が減少するなか、人手不足がさらに深刻化すると予想されます。

優秀な人材を確保するためには、働きやすい職場環境の整備はもちろん一定程度の賃金を用意することも重要です。

今後、介護報酬が引き下げられるなか、人件費増は特養経営にとって大きな課題となるでしょう。


独立行政法人福祉医療機構の調査結果を見ると、黒字の特養は、介護報酬の引き下げに対応して、新設された加算の取得に積極的に動いている様子が見て取れます。

さらに、事務費など経費削減策も多数講じているようです。時代に即応した経営体制を構築している特養こそ事業を継続している印象です。


2018年度には3年に一度の介護報酬改定が控えています。

特養待機者減が鮮明となるなか、特養それぞれが自主性を発揮しつつ、介護報酬改定に対応した経営施策を迅速に打ち出せるかどうか。

比較的経営が安定しているとされる特養といえども決して安泰とは言えない、そんな生き残りをかけた時代がすでに来ているのです。


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