都市部での特養整備に向け、民間から土地・建物を賃借した特養開設が可能に
2017/01/11 17:00
厚生労働省は2016年7月27日に、都市部に限って、特別養護老人ホームを民間からの土地貸与でも建てられるよう、要件の緩和を行うことを発表しました。
これまで土地の貸与は安定供給の面から、社会福祉法人および地方公共団体からの貸与のみで運営されてきましたが、この緩和によって、52万人にのぼる特養の入居待機者の入所を促進させることが期待できます。
規制緩和の第一歩となるか。特養の建設が民間からの土地貸与で可能に
この施策は、安倍政権が掲げる「介護離職ゼロ」の実現に向けてのものです。
同年6月に閣議決定した「ニッポン1億総活躍プラン」では、規制緩和を行い、都市部での施設整備を促進する方針が盛り込まれていました。
特に都市部では、高齢化にともなって高齢者人口の増加が見込まれるからです。
高齢化にともなう人口の増加によって、特に都市部では慢性的な施設不足に悩まされています。
そんな都市部に限り設置要件の緩和を行うことで、より幅広く柔軟に土地を確保することができるようになりました。
今までは国有地または都道府県の土地のみにしか建てられなかった、特別養護老人ホームの施設数の増加が期待できるでしょう。
都市部に建てることが可能となったのは、利用者にとっても歓迎すべきことでしょう。
なぜならば、これまでは都市部以外の住み慣れた土地から離れた施設に入居せざるをえなかった人もいるからです。
都市部であれば利便性が高く、首都圏に住む家族の家から近い施設で介護を受けることも可能となってくるでしょう。
このような、利用者にとって便利になる規制緩和であれば推進していくべきです。
都市部に限定されているのは、国勢調査における人口集中地区であり、今後、高齢者人口の増加が見込まれる地域など、「特別養護老人ホームの需要が高いが、土地の取得が困難である」と認められる地域に限ってのことです。
要件緩和の主な内容
都市部地域であること(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県)
入所施設を経営している社会福祉法人であること
定員数が2分の1を超えないこと
賃貸借期間が30年以上となること
1000万円以上の資金があること
既設の社会福祉法人であれば、民間から土地を借りて特別養護老人ホームを建てることが可能となります。
また、すでに運営している特養を建て替える場合や、建物の老朽化のために移転する場合などでも、民間から土地を借りて建てることができるようになります。
このとき、資産の要件や賃貸借期間が30年以上などの要件は満たさなくてもよいことになりました。
特養が増えれば「介護離職ゼロ」も進む?
これまで社会福祉法人あるいは地方公共団体のみだった土地の工面が民間からも行えるようになったことで、介護業界はどう変わるのでしょうか。
まず、特養養護老人ホームの建設が一気に進むことが期待できます。
これまでは土地の工面も大変でした。しかし、規制が一気に緩和され民間から賃貸借できるようになったことで、特別養護老人ホームの数が大幅に増えることが見込まれます。
今回の規制緩和は、そうした要請に答えるための一面もあるでしょう。
もちろん、「ニッポン1億総活躍プラン」の中にも盛り込まれた提言であって、介護離職をゼロにするための施策でもあります。
介護施設が不足していると、必然的に自宅で介護せざるをえず、職業との両立が不可能になって介護離職が起きてしまいます。
介護離職がいったん起きると、今の日本の労働慣行のもとでは、辞める前以上の給与が得られる仕事に復帰することは極めて困難です。
働く能力のある人が、介護によるキャリア的ブランクのせいで仕事に復帰できず、生活保護になってしまえば国や地方自治体の負担も大きく増加してしまいます。
からといって、介護問題はもはや超高齢社会の日本で避けて通ることはできず、介護施設の増大と介護人員の確保は大きな課題となるでしょう。
団塊の世代が後期高齢者である75歳に突入する2025年まであと数年あるにもかかわらず、
この不足状況なのですから、国も早期に規制を緩和して、介護施設を増やしたいと考えるのは自然な流れと言えるかもしれません。
介護施設を増やすだけでは人材不足を解消できない
一方で、介護施設で働く職員の数も不足している問題があります。
2025年には、大幅な介護施設不足・介護人材不足が懸念されています。
都心部では高齢者人口の増加にともなって介護のリソースが足りていないのが現状です。
本当に「介護離職ゼロ」を実現するのであれば、施設の増加だけでは足りないのです。
本格的な大介護時代はもう到来しつつあります。
まずは箱モノである特養施設を大幅に増加させ、その後は、人的資源のリソースを増やしていくことが必要です。
国は介護施設の規制緩和だけでなく人材不足を補わなくては、根本的な解決にはなりません。
まずは、介護報酬を十分にアップさせて介護職員の給与を安定かつ安心できる水準のものに引き上げることが重要です。
今は介護報酬が介護保険制度に依存しているため、自由診療がきかず、各施設間での自由競争もはたらきません。
混合介護によって報酬アップが期待できる
事業者間の競争をはたらかせるためには、「混合介護」をはじめとした自費制度の導入も欠かせません。
自費制度を導入して、施設・業者間にサービス競争を導入し、より質の高いサービスを高付加価値で受けられるようにすれば、介護職員の報酬も十分な水準までアップさせることができるでしょう。
そうした混合介護の規制緩和なども道筋が見えつつあります。
混合介護によって介護報酬が高くなるだけでなく、介護サービスを受ける要介護者の側にも、高齢者が持つより幅広いニーズに答えてもらえるというメリットがあります。
日本人がもつ資産の大部分が高齢者に偏っている現状を鑑みると、お金を持っている人が介護保険で限られた介護サービスを受けている現状はもったいないと言えます。
お金を払うことができる人たちには、より介護サービスを自由に使ってもらい、介護を提供する側もより高報酬で介護サービスを行うことができるwin-winの関係になれるよう、規制緩和が求められています。
ここまで見てきたように、特養の土地を民間から借り入れできるようになったのは大介護時代を迎えるにあたっての大きな一手であり、介護業界の規制緩和に対する第一歩であるといえます。
介護保険の範囲内ですべてがまかなわれないため競争原理がはたらかないのでは、介護職員の給与は依然として低いままと言わざるをえないでしょう。
特養の土地を民間から借りられることになったのを契機に、介護業界全体の規制を緩和することが、今の日本社会にとって求められていることではないでしょうか。
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