#社会福祉法人制度改革(1) ... 過大な内部留保、非常識な役員報酬、株式会社の特養参入
多額の内部留保を溜め込む利益体質や理事長による私物化が問題視されている社会福祉法人。こうした現状を重く見た厚生労働省は、有識者会議「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」を設置し、2014年7月に報告書「社会福祉法人制度の在り方について」を公表しました。
この報告書に基づき、今年3月末には、社会福祉法人制度を大きく改革する改正社会福祉法が成立。「社会福祉法人制度改革」が本格的に動き出しました。
ガバナンスや財務、行政の関与などにまで言及。社会福祉法人に大幅な改革を迫る内容
「社会福祉法人制度改革」の柱は全部で5つ。
順に概要を説明します。
経営組織の在り方の見直し(ガバナンスの強化)
すべての法人において、評議員および評議会員会の設置が義務付けられました。
これまでは、保育所、介護保険事業など単独事業を行っていた社会福祉法人は設置不要でしたが、今後は対応を迫られることに。
評議員は、評議員会の招集請求権、議題提案権といった権限だけでなく、善管注意義務や損害賠償責任、特別背任罪の適用など責任も明確化され、誠実に職務にあたる必要があります。
評議員は理事との兼任が認められず、役員の親族など特殊な関係にある者は就任できないなど資格が厳しく制限されることに。
これは、社会福祉法人の私物化へ対応したものと言え、経営組織の変革は待ったなしと言えそうです。
理事会、理事、理事長、監事の役割および権限、責任などを明確化。
理事長は業務執行権および法人の代表権を有する者と位置付けられました。
これにより、株式会社と同様のカバナンス体制が取られることになりました。
社会福祉法人の不適切会計が目立つなか、一定規模以上の法人への会計監査人の導入が義務付けられました。
対象となるのは「収益が10億円以上の法人」「負債が20億円以上の法人」の予定です。
また、一定規模以上の法人は、ガバナンス確保のため、内部管理体制の整備を進める必要があります。
事業運営の透明性の向上
下記の書類を各事務所に据え置く必要があります。
これらの書類はこれまで利害関係人のみが閲覧できましたが、今後は一般市民も閲覧可能。社会福祉法人の情報公開をより一層進め、自律的なガバナンスを期待するものです。
定款
計算書類(貸借対照表、収支計算書)、事業報告書、附属明細書、監査報告書
財産目録
役員等名簿
役員等報酬基準
現況報告書
事業計画書
また、下記の書類をインターネットにより公表しなければなりません。
定款
貸借対照表、収支計算書、現況報告書
役員等報酬基準
そして、「現況報告書」には役員ごとの報酬総額を記載することが求められます。
これにより、理事長をはじめとした社会福祉法人幹部の報酬が白日の下にさらされます。
適正かつ公正な支出管理(財務規律の強化)
理事、監事、評議員などに対する報酬基準を定め、これに従って報酬を支給しなければなりません。
民間事業者の役員報酬などを鑑み、不当に高額なものとならないよう配慮が求められます。
そして、役員など関係者へ特別の利益供与をしてはならないと明記されました。
株式会社では当然のことであるこのような措置も社会福祉法人ではまかり通っていたわけです。
「社会福祉充実残額」の明確化も義務付けられました。「社会福祉充実残額」とは、「余裕財産」のこと。計算式は「社会福祉充実残高=(活用可能な財産)-(事業継続に必要な財産)」です。社会福祉法人の過剰な内部留保が批判されていることに対応したものです。「社会福祉充実残額」を保有する法人は、社会福祉事業または公益事業を実施する計画書を提出し、所轄庁より承認を受ける必要があります。
地域における公益的な取り組みを実施する責務
社会福祉法人に対し、地域福祉により積極的に関わるよう求めたもの。税制優遇を受けながら、内部留保を溜め込み、地域社会に果実を還元しないことが問題視され、この責務が規定されました。ここでいう公益的な取り組みとは次の3要件をすべて満たしたものです。
社会福祉を目的とした福祉サービスとして提供される
サービスの受け手は、心身の状況や家族環境、経済的な理由により支援が必要な人である
料金を徴収せず実施する事業か、発生する費用を下回る料金を徴収する事業である
地域の高齢者や障害者と住民の交流を目的とした祭りやイベントは該当しますが、法人のサービス利用者と住民との交流活動は該当しません。また、子育て家族に交流の場を提供する活動は該当しますが、交流スペースなどを地域住民に貸し出す活動は該当しません。
行政の関与の在り方
都道府県は、市区町村による指導監督を支援する役割を担うことになり、国、都道府県、市区町村の連携が規定されました。また、社会福祉法人に対し、市区町村による報告徴収、立ち入り検査の規定が明確化され、適用状況が拡大、速やかに改善命令や業務停止命令、役員退職勧告、解散命令などの行政処分が下せる体制が整いました。
社会福祉法人の実態把握を目的に、国による情報収集が規定されました。これに伴い、市区町村への届出書類が増加。従来は、計算書類(貸借対照表、収支計算書)と現況報告書だけを提出していれば問題ありませんでしたが、今後は事業報告書や監査報告書、財産目録、役員等名簿、役員等報酬基準、社会福祉充実計画(社会福祉充実残額を保有する場合)の提出が義務付けられます。これにより、社会福祉法人の経営状況が一目瞭然となるでしょう。
過大な内部留保、非常識な役員報酬、株式会社の特養参入…。社会福祉法人改革は待ったなし!
介護保険法が成立した2000年以後、社会状況は大きく変化し、高齢化を背景に社会福祉法人は特別養護老人ホームや通所介護事業などに参入することになりました。今回の社会福祉法改正は、介護保険法成立後の大幅な改正となっており、社会福祉法人に改革を迫るのに十分な内容となっています。
2011年の社会保障審議会介護給付費分科会において、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホーム一施設あたり平均約3.1億円もの内部留保が存在すると判明しました。
その後、会計検査院による検査が行われ、税制優遇を受けながらも財務諸表等が公表されていないと問題に。また、非営利性や公共性を重視された特別な存在であるにもかかわらず、非常識な役員報酬がまかり通り、自治体OBが天下る人事体制も問題視され、今回の社会福祉法人改革が動き出したわけです。
「第170回特養に参入意欲がある株式会社が約6割も!それでも参入が進まない背景には、社会福祉法人の“厚遇”が!?」で解説した通り、特別養護老人ホームの不足が問題視されるなか、株式会社などがスムースに参入できるよう税制優遇だけでなく補助金制度の見直しも議論の対象になるでしょう。
現在、株式会社やNPO法人など多様な経営主体が介護事業に参入し、措置から契約へ移行しています。今後、順次社会福祉法人改革が進みますが、実効性のあるものとなるのか。そして、社会福祉法人自らが国民の批判に応え、自浄作用を発揮できるかどうか。社会福祉法人の存在意義そのものが問われています。
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