#児童相談所の現場から... #一時保護 #自立更生支援プロジェクト


↑↑↑子どもの心理を知るための「箱庭療法」に使う人形↑↑↑


児童養護施設の入所、22歳までに延長... 

2017年度から

朝日新聞デジタル : 2016年12月16日


#児童養護施設の入所、22歳まで 来年度から延長...


虐待や親の病気などを理由に親元で暮らせない子どもが暮らす児童養護施設の対象年齢が来年度から引き上がる。


現在は原則18歳までだが、自立が難しい場合は22歳になる年度末まで可能にする。

18歳で施設を出ると、貧困に陥るケースもあるためだ。


厚生労働省が来年度予算案で対応する。

継続的に悩みを相談できる仕組みも設ける。

現行制度では児童福祉法に基づき、児童養護施設や里親家庭で暮らせるのは原則18歳まで。

5月の法改正で、施設出身者らが原則20歳まで入れる自立援助ホームを就学中に限り22歳になる年度末まで延ばした。

今回は法改正をせず、運用によって事実上、対象年齢を上げることにする。

進学や就職ができなかった子どもや、就職しても自立が難しい子どもが対象。

22歳になる年度末まで #児童養護施設や  #里親家庭、#自立援助ホームなどで暮らせるように、厚労省が受け入れに必要な運営費を補助する。


子どもの自立支援策もさらに拡充。

施設を出た子どもにも必要に応じて相談員が訪ね、生活や仕事の悩みに対応する。

児童相談所のある自治体には「 #支援コーディネーター 」を配置できるようにし、子ども本人や施設職員らと面談しながら支援計画をつくる。

その後も自立が難しい場合は、自治体による #生活困窮者自立支援などにつなげ、継続的に支援を受けられるようにする。

厚労省が昨年9月に設置した有識者委員会では「一定の年齢に達したことで支援が打ち切られる制度はおかしい」との指摘が相次いでいた。(伊藤舞虹)

#児相の現場から

2016年12月16日

児童相談所(児相)は、児童虐待への対応の中核を担う行政機関。

虐待事件のたびに批判の矢面に立たされる児相だが、その内実はほとんど知られていない。

西日本のある児相への取材にもとづき、虐待対応の最前線に迫った記事を紹介する。


#一時保護

児相は都道府県と政令指定市に設置が義務づけられ、全国に210カ所ある。

虐待のほか、不登校や非行、障害など子どもに関するあらゆる相談に対応する。

ワーカーとよばれる児童福祉司が対応の中心を担う。


児相は、父母の不在や虐待などで養育が困難な子どもを一時保護する権限を持つ。

親の同意を得て保護するケースもあれば、子どもが危険な状況だと児相が判断した際、強制的に子どもを引き離す「 #職権保護 」をするケースもある。

2014年度には全国で3万5174件の一時保護があり、約半数は虐待が理由だった。


児相の職権保護をめぐっては、保護者から「虐待と決めつけられて連れて行かれた」といった批判の声があがることもある。


自治体への不服申し立てはできるものの、申し立てを審理して判断するのは自治体で、保護者の不満も大きい。

一方、保護を見送ったために子どもが虐待死するケースが後を絶たないことから、積極的に職権保護を進める児相が増えている。


米国などでは、一時保護の判断が妥当かどうかを裁判所が判定する仕組みになっており、日本でも同じように裁判所が関与するべきだとの指摘が専門家から出ている。


#ネグレクト

児童虐待の一種で、保護者が子どもにとって必要な育児を放棄すること。

厚生労働省によると

▽家に閉じ込める

▽食事を与えない

▽ひどく不潔にする

▽自動車の中に放置する

▽重い病気になっても病院に連れて行かない

――などがネグレクトにあたる。


社会保障審議会児童部会の専門委員会の報告書によると、2003年7月~15年3月の児童虐待死事例(626件)のうち3割弱にあたる169件がネグレクトによる死亡だった。


#児童福祉司

児童相談所で虐待や非行などの対応にあたる職員として地方自治体が任用する。

ワーカーとも呼ばれる。

児童福祉法で、社会福祉士などの資格や一定の実務経験などが要件として定められている。

2015年度は全国で2934人おり、福祉などの専門職が全体の7割弱、残る3割強は一般行政職がついている。


勤務年数は3年未満が4割超で、専門性の不足が指摘されている。

人員不足も長年の課題だ。


15年度に全国の児相が対応した虐待件数は10万件超と10年間で約3倍に増えたが、児童福祉司の人数は約1・5倍の増加にとどまる。

厚生労働省は19年度末までに全国で550人増員する方針を示している。



くっきりと歯形「#ママにかまれた」

2016年12月19日

「ふくらはぎに歯形がついている」

保育園から児童相談所(児相)に連絡があったのは、午後1時15分。

以前、母親が大声で怒っていると近隣から虐待通報があり、児相が半年ほど見守ってきた3歳の女の子だった。

担当ワーカー(児童福祉司)は家庭訪問中で不在だった。

「私、行けます。午後3時からの弁護士事務所での打ち合わせの前なら保育園に寄れます」。児相にいた虐待対応チームのケイコ(仮名)が手を上げた。

「両親の知的能力に課題がある家庭。傷を確認し、写真を撮ってきて」。

課長の言葉を背に、ケイコは児相を出た。

午後2時過ぎに保育園に到着。女の子は昼寝中で、ケイコはまず職員から話を聞いた。

女の子は着替えの際、自らズボンの裾をまくって「ママにかまれた」「痛かった」と職員に言ってきたという。

ほかに傷は見当たらなかったこと、この朝は父親が送ってきたこと、衛生面は心配ないことなども職員から聞き取った。

あざややけど。

言葉できちんと説明できない子どもにとって、体にある傷は「無言のサイン」だ。

傷から虐待の有無を見極める力は欠かせないが、学校や保育園などで見過ごされてしまうこともある。


「お泊まりして」あざの子を一時保護

2016年12月20日

午後3時すぎ、管轄するエリア内の市から児童相談所(児相)に連絡が入った。

この日の午前、2年生の男の子の顔にあざがあるのを見つけたと、小学校の校長から通報があったためだ。


男の子は「同居の男性にたたかれた」と先生に話したという。

「週に1~3回はグーでたたかれる」とも。


児相内で緊急の会議が開かれ、一時保護の方針が決まった。

あざができるほど顔をたたかれ、日常的な暴力の可能性もあることが判断の基準となった。


ワーカー(児童福祉司)らが一斉に動き出した。

まず男の子の弟が通う保育園に連絡し、弟への虐待がないかどうかを確認した。

小学校には男の子を帰宅させないよう電話した。


午後4時10分、ワーカーのハルミ(仮名)ら2人が車で学校に向かった。

学校からは「校長がいる午後4時半までに来てほしい」と言われた。

時間がない。


20代のハルミは虐待対応チームに入って1年目。

「本人がいやって言うかもしれない。市は午前中に学校から連絡を受けているのだから、もう少し早く連絡してくれたら……」と思った。

放課後よりも、授業中に子どもを呼び出して保護した方が、ほかの子どもたちの目に触れずに済み、校長や子どもから話を聞く時間も十分にとれる。

でも、ぼやいても仕方ない。焦る気持ちを集中させた。

午後4時28分、学校着。担任に連れられて、ランドセルを背負った男の子が会議室に入ってきた。

ほおが赤く腫れているのがハルミにもわかった。

「家族と話したいと思います。君を守るためにお泊まりしてもらうことになるけど、いいかな?」

話しかけるハルミに男の子は素直にうなずき、児相の車に乗り込んだ。

最初は緊張気味だったが、すぐに打ち解けたという。


子どもの安全を守るための一時保護。


子ども自身が同意して保護できたとしても、それは始まりでしかない。

保護された子どもは病院で診察を受け、一時保護所などで親と離れて寝泊まりするようになる。


安全だが不自由 一時保護所から脱走

2016年12月21日

トレーナーにジャージー姿の女子高校生2人が、スーパーの中にあるフードコートに座っていた。

「いた!」。

児童相談所(児相)の男性ワーカー(児童福祉司)が走り寄る。


2人は一時保護中の高校生だ。

慌てて逃げ出したが、ワーカー2人が追いかけ、何とか保護した。

午後7時すぎ。あたりはすっかり暗くなっていた。


女子高校生2人が部屋にいないことに一時保護所の職員が気づいたのは、この日の朝。

その後、児相のワーカーが手分けして捜していた。

ひとりが前日からのことを職員に話した。

前の晩の午前1時ごろ、宿直の職員の目を盗んで外に出た。

近くにあった自転車に2人乗りし、コンビニを転々としたという。


一時保護の際には携帯電話や現金を事務所に預けるため、手元には一銭もなかった。


道で拾った小銭で菓子を買い、ミカンを万引きして腹を満たした。

友人宅で少し眠ったり、たばこをもらったり。

その後、おなかがすいてスーパーの試食コーナーをはしごしていたら、ワーカーに見つかってしまったという。保護所から約5キロ離れたスーパーだった。


「閉じ込められている感じがした。たばこが吸いたかった。(一時保護所の)金曜の献立が好きな鶏のから揚げだから、それまでに帰ってくるつもりだった」


一時保護所は子どもたちにとって安全とはいえ、不自由で、必ずしも居心地がいい場所ではない。


傷つき、寂しさを抱える子どもたちを支えるため、一時保護所の職員には高い力量が求められる。


発達障害児に暴力 しつけだから… 

2016年12月22日

病院についた途端、男の子は走り出した。

「危ないからちょっと待って!」。

担当ワーカー(児童福祉司)のケイコ(仮名)は叫んだ。


男の子は小学1年生。

父親に顔にあざができるほど殴られ、児童相談所(児相)が一時保護していた。

男の子はとにかく落ち着きがない。

追いかけるが、ケイコが伸ばす手をすり抜け、走り回る。

同行した児童心理司と2人で追いかけてやっと捕まえた。

手をつなぎ、小児科の医師のもとに連れて行った。

診察中、廊下で待っていると「トイレ!」と飛び出してきた。

看護師も手に負えない様子だ。

児童心理司が追いかけていった。

その間、ケイコは診察室へ。「極めて多動傾向の強いお子さんです」と医師。


ケイコが保護の経緯を説明すると、「自分では『はしゃいで悪いことをして施設に入れられた』と言っていましたよ」。


すでに両親は来院し、面談したとのこと。

医師によると、両親の希望は「服薬はさせたくない」とのこと。

父親は「ちょっと元気で困っている。(殴ったのは)しつけだから」と話したという。


「ご両親が発達障害を受容していないので、治療は慎重にしないといけないですね」と医師はケイコに言った。


一時保護中の子どもの通院にはワーカーが付き添う。

発達障害があるケースも少なくない。


道中での子どもとの会話や医師の診断は、家庭での状況を把握し、親子関係の改善を図るうえでも大切だ。


性的虐待 行為の「証拠」確かめたい

2016年12月26日

「どうやったら事実が出てくるのだろうか」。

ワーカー(児童福祉司)のヨシコ(仮名)は少し緊張していた。

児童相談所(児相)内で、性的虐待の疑いがあって一時保護している中学生に、事実を確認するための面接をすることになっていたからだ。

40代のヨシコは虐待対応チームのベテラン。


数カ月前には事実確認のための面接の方法について学ぶ研修を外部で受けた。

児相の中で3人しかいない、面接のノウハウを知る貴重な人材だ。

ただ今回は、ヨシコにとっては性的虐待の事実を確かめる初の実践になる。


性的虐待の場合、とくに1回の面接で子どもから事実を聞き出すことが重要とされている。


子どもの証言は「証拠」となるが、何回も同じことを聞くと、証言が変遷したり、子どもの心の傷をより深くしたりしかねないからだ。


事前に入手できた情報を総合すると、家族全員が同じ部屋に寝て、女子中学生は父母の性交渉を見たり、父親と一緒にふろに入ったりしているとのことだった。


具体的に何が起こっているのか、ヨシコは確かめたかった。

午後1時半、ヨシコは、一時保護所から連れてきてもらった女子中学生と面接室で向かい合った。

誘導尋問にならないよう、「それから?」「その後のことも教えて」などと尋ねて、客観的な事実を引き出そうとした。


性的虐待は「魂の殺人」と言われる。


口止めされ、何が起きているかも最初はわからない。

嫌だけど、家族は壊したくない。

思い惑う子どもたちから、ワーカーは真実を聞き出さなくてはならない。



悪くはない、でも… 性、どう教える

2016年12月27日

月曜の朝一番。

虐待対応ワーカー(児童福祉司)のケイコ(仮名)のもとに一時保護所の職員がやってきた。

ケイコが担当する一時保護中の小学1年の男の子が夜、小学2年の男の子の布団に入り、パンツを下ろして性器の触り合いをしているところを、職員が見つけたという。

「(小1の)彼はもうすぐ家庭引き取りの方向。(そのまま帰せないので)急がないといけないですね」とケイコが応じた。


子どもが遊び心でする性的接触がその後にエスカレートしたり、ほかの子に連鎖していったりする可能性は否定できない。

早めに適切に指導することが大切だ。


ケイコは午後、相手の小学2年の男の子を担当するワーカーのハルミ(仮名)や児童心理司、一時保護所の職員らと打ち合わせをした。

2人の子どもからそれぞれ聞き取り、状況を把握してから、心理司が主体となって子どもたちに話をすることにした。


「性的な興味があることはふつう。悪いことではない。でも、マナーやルールを教えておかないといけない。発覚してよかったと思う」と心理司は言う。


子どもたちが性的な興味をもつことはふつうのことだ。

だが、遊び心で始まったことも放っておくと、性的な問題行動につながるかもしれない。

ルールやマナーを早めに教えておくことが大切だ。



包丁を向けられても「家に帰りたい」

2016年12月28日

一時保護中の姉妹を児童養護施設に入所させることに、母親が同意した。

本来ならほっとしていいところだが、虐待対応ワーカー(児童福祉司)のケイコ(仮名)の心はどこかすっきりしなかった。

これからのことを考えると悩ましいのだ。


母子は生活保護世帯。母親は酒を飲み、大量服薬したり、リストカットしたり。

包丁を娘2人にも向けたため、児童相談所(児相)が一時保護した。

そのとき2人は「家には帰りたくない」と言った。


当初、母親は反発した。

ふてくされ、怒り、施設入所の話には一切応じなかった。

だが、保護から約2カ月たち、しぶしぶ同意した。

このままでは子どもに会えないが、子どもが施設に入れば、会うことができる、と考えたようだ。


母親は知的能力に課題がある。


ケイコは電話して、子どもたちの下着や洋服、くつなどを用意するよう、丁寧に説明した。

翌日、ケイコが自宅を訪ねると母親はこれまでの仏頂面とは違い、ニコニコしていたという。

2人にそれぞれ1箱ずつ、洋服などを入れた段ボールが用意してあった。

「お母さんは悪ぶってるけど、かわいいんですよ」とケイコ。

ケイコは用意してきた「確認書」を母親に見せた。


何が問題だったのかを理解して改善してもらうため、書面にはこんなことが書かれている。


 ①子どもの前で包丁を持ち出さない。大量服薬もしない

 ②子どもはそれを怖がっている

 ③改善するために、子どもたちが施設に入所することに同意する

 ④子どもたちとの面会や電話、外出、外泊は児相の計画に従う

 ⑤関係機関と協力して支援を受けていく

 母親は素直に署名した。


その足で、ケイコは荷物を児童養護施設に届け、姉妹にも会った。

母親が施設入所に同意したことを伝えた。


「お母さんに会いたい?」。


そう尋ねると、軽度の知的障害がある姉はうなずいた。


小学生の妹は「う~ん」と考え込み、すぐには返事をしなかった。


一時保護の後、児童養護施設などに入った子どもは、たいてい親が恋しくなる。


だが、保護者が行動を改めてくれなければ、家庭に戻すことはできない。

そのバランスの中でワーカーは悩む。


保護するべきか、見守るべきか

2016年12月14日

#虐待通報を受け、#児童相談所(児相)が判断に迷うケースは少なくない。


夕方、児相が管轄するエリア内の市の担当者から児相に電話があった。

4歳の男の子の頭部に傷があると保育園から連絡があったという。


ワーカー(児童福祉司)のミエコ(仮名)が駆けつけた。

ミエコは自らも3人の子どもがいる40代の母親だ。

その男の子はすでに帰った後で、保育園は傷の写真を用意していた。

保育園によると、日頃から不衛生で臭いがするため、園でシャワーを浴びさせており、1年ほど前には目が内出血していたことがあった。

迎えにきた父親に頭部の傷について尋ねたが、「知らない」という返事だったという。

ミエコは午後7時半すぎに児相に戻った。

「お昼も食べていない」と職場に置いてあったおかきを口に運びながら、本棚から分厚い本を取り出した。


タイトルは「#子ども虐待の身体所見」。


ページを繰りながら、保育園から渡された写真と見比べ、「だれが何をすればこんな傷になるのだろう」と頭をひねった。


子どもの体にできた傷は虐待によるものなのかどうか――。

その「見立て」によって一時保護するかどうかの方針も左右される。

力量が試される場面で、ワーカーは悩みに悩んだ。



「きょう、実施」

2016年12月15日

晴れた日の午前10時、児童相談所(児相)内で開かれていた会議。

虐待が疑われる幼い姉妹を職権で保護する方針が決まった。


約1カ月前、管轄するエリア内の町から連絡があり、児相や関係自治体などが地域ぐるみで虐待に対応するための「 #要保護児童対策地域協議会(要対協) 」で対応を検討してきた事案だ。


保育園に通う姉の体のあちこちに、半年以上前からあざが繰り返し見つかっていた。

母親は「遊んでできた傷」などと説明していたが、傷の場所や形から虐待の可能性が高いと児相は判断した。


1歳の妹の詳しい状況はわかっていなかった。

保健所の乳幼児健診に妹が健診に来れば、医師に身体状況を確認してもらい、傷があれば一時保護する計画を立てた。

姉は同じ日に保育園で一時保護することにした。


健診には母親も一緒に来る。

仮に保護すると判断したときに、どうやって母親と引き離し、騒ぎにならない形で妹を連れ出すのか。打ち合わせは続いた。


「傷がないからといって保護しなくて大丈夫?」

「1回保護して確認した方がいいのでは?」

「医師の判断が重要。医師によく説明しなくては」

町や保育園との連携、健診担当の医師への説明、保護者への告知などの手順も確認した。


赤ちゃん放置?   命の危険に迷う暇ない

2016年12月14日

「赤ちゃんが家に放置されているかもしれない。どうしたらいいでしょうか」


午後5時すぎ、児童相談所(児相)の管轄エリア内の市の担当者から電話が入った。

保育園児と0歳児を抱える家庭でネグレクト(育児放棄)が疑われるという。


いきさつはこうだ。姉が保育園で発熱し、母親に電話したが、連絡がつかない。

仕事中の父親に連絡すると、「妹の具合が悪かったので家にいるはず」と言った。

半年ほど前、姉にあざが見つかり、母親が拳で殴ったことなどを認めたことがある家庭だった。

保育園から連絡を受けた市が保健師を自宅に向かわせたが、母親は不在だった。

以前にも赤ちゃんを置いて母親がパチンコに行っていたことがあったという。

     

赤ちゃんが虐待を受けると命の危険に直面する。


2014年度に虐待で亡くなった18歳未満の子どもの約6割は0歳児だ。


家に置き去りにされた赤ちゃんの救出劇を追った。   

赤ちゃんの放置は命にかかわる。

現場は神経質にならざるを得ない。

この家は児相から車で1時間弱。

迷っている暇はない。

「とにかく行って。本当に放置されているのなら危険だから、保護して」と指示が飛んだ。



「死んでやる」包丁と怒声の中で保護

2016年12月13日

「いま夫婦げんかしている。子どもが巻き込まれるから、保護してほしい」

けんかをしている真っ最中の母親から児童相談所(児相)に電話があった。


子どもは3歳と赤ちゃんという。

児相内で、安全確認や一時保護など虐待の初期対応にあたるチームから、ワーカーと呼ばれる児童福祉司のケイコ(仮名)とミエコ(仮名)が急行した。

30代のケイコはチームに入って4年目。

40代のミエコは2年目、保育士の資格を持ち、障害者福祉施設の現場などでの経験が長い。

2人が到着すると、母親が赤ちゃんを抱えたまま父親とののしりあい、もみ合っていた。

赤ちゃんを受け取ろうと2人で手を出すと、父親がすごんだという。


「連れていくな。帰れ!」

虐待などで子どもが危険な状況にあると判断すれば、児童相談所は子どもを一時的に親から引き離す「一時保護」に向かう。


その現場では、児相の職員たちの身が危険にさらされることもある。

夫婦は家の外に出てきて、取っ組み合いを始めた。

夫婦に赤ちゃんを傷つける意図はないが、何かの拍子に赤ちゃんがけがをする可能性は否定できない。

ケイコもミエコも必死だった。

もみくちゃになりながらケイコが何とか赤ちゃんを確保し、その場を走り去った。

増える虐待、対応「もう限界」 

児相職員、すり減る心身

2016年11月20日

バジルのパスタを食べようとしたときだった。

午後9時半すぎ、西日本にある児童相談所(児相)でいつものように残業をして帰宅したワーカー(児童福祉司)のケイコ(仮名)の携帯電話が鳴った。

遅い夕食とはいえ、夫と向かい合い、ほっとした時間を過ごそうとしていた。


児相からの着信に胸騒ぎがした。

この日の夜は、緊急事態が発生すれば、対応しなければならない当番にあたっていた。

病院から、虐待が疑われるとの通報があったという。

小学生が脳振盪(しんとう)を起こして運ばれたので、病院に行って確かめてほしいとの依頼だった。

ケイコはすぐに自宅を飛び出した。

車を運転して約1時間。ほかのワーカーと病院で落ち合い、父親から何があったのかを聞いた。

「質問しても息子が何も答えなかった。小突いた後に押し倒し、足で踏んづけた」とケイコに話したという。子どもは吐き気を訴え、そのまま入院した。

帰宅したのは午前0時すぎ。夫はすでに寝ていた。

ひとりで冷めたパスタを食べ、床に就いた。

翌朝は午前8時半に出勤。

その後、入院した子どもの一時保護に向かった。

ケイコは虐待の対応チームに入って4年目の30代。

大学を卒業後、別の仕事をしていたが、子どもが虐待で亡くなるニュースを見て、「自分が救う側に回りたい」と、この世界に飛び込んだ。

だが、日々何が起こるかわからない緊張感と忙しさでへとへとだ。

車で帰宅途中に夫と2人分の牛丼を購入したものの、眠気に襲われてハンドルを握れず、コンビニの駐車場で30分眠ってしまったこともある。


ワーカーの中には、自身の子どもの世話を実家に頼らざるを得ず、「ほとんどうちがネグレクト(育児放棄)」とぼやく女性もいる。


ある日の夕方、児相に連絡が入った。

一時保護した後、乳児院に預けていた3歳の男の子が41度の熱を出し、肺炎の疑いがあって入院。児相職員の付き添いが必要になった。

男の子を担当するヨウコ(仮名)が「私が泊まります」と声をあげた。

「今日は帰れない」と夫にメールした。

チーム3年目。

この夜は、別の子どもの親に家庭訪問して会うことにしていたが、キャンセルした。

翌朝には、別のケースで今後の対応を関係機関と話し合う重要な会議が控えていた。

病院に行く前に資料を作っておかなくてはならず、パソコンに向かった。

その様子を見ていた同僚が声をかけた。

「午後9時までなら私が付き添いに行ってもいいよ」

「ありがとう」。

ヨウコは急いで資料を作り、午後6時半に児相を出て、いったん帰宅。シャワーを浴びて午後9時から病院に入った。

結局、その夜は2時間ほどしか眠れず、朝7時に別の職員と交代。

そのまま児相に出勤、会議に出かけて行った。

入院した男の子は約1週間で快復し、退院の日を迎えた。

その日は休日。

ヨウコは休みを返上して病院に迎えに行き、乳児院に連れて行った。

この児相は、全国でも人口比でワーカーの配置数が多い。

それでも増える虐待の対応にてんてこ舞いだ。


人材が育つのには6~7年かかるが、経験が3年以下のワーカーも少なくない。


児相の元所長はいう。

「いまの児相は保護者への対応と子どもへの対応、関係機関との連携を一手に担わされていて、もう限界。

貧困の連鎖を断ち切る方策も含めて、未来を背負う子どもたちに社会としてもっと人と金をかけるべきだ」


子どもを守る――。

その使命のため、児相ワーカーたちの心身を削りながらの奮闘が続いている。


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