「#地域包括支援センター」の現状と課題
厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供される「 #地域包括ケアシステム 」の構築を目指しています。この中核となるのが「地域包括支援センター」です。
ケアマネジメント業務や在宅医療の推進など多様な業務を担う地域包括支援センター
「地域包括支援センター(以下、センターと表記)」は、
地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の際に必要な援助を行い、高齢者の健康と福祉の増進を図る機関。
設置主体は市町村で、原則、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員の3職種が連携して、支援を行います。
業務内容としては、介護関連だけでなく成年後見制度の利用促進や高齢者虐待防止にも関わるなど業務範囲は多岐に渡っています。
1.#介護予防ケアマネジメント業務
#二次予防事業対象者(かつては #特定高齢者 と呼ばれた)に対する介護予防ケアプランの作成など。「二次予防事業対象」とは、生活機能低下の恐れがあり、要支援、要介護状態になりかねない65歳以上の高齢者のこと。
2.#総合相談支援業務
住民の各種相談を幅広く受け付けて、制度横断的な支援を行う
3.#介護予防支援
要支援者に対するケアプラン作成業務
4.#権利擁護業務
成年後見制度の活用促進、高齢者虐待への対応など
5.#包括的継続的ケアマネジメント支援業務
「地域ケア会議」などを通じた自立支援型ケアマネマネジメントの支援
ケアマネジャーへの日常的個別指導、相談
支援困難事例などへの指導、助言
6.#在宅医療介護連携
地域医師会と連携し、在宅医療、介護の一体的な提供体制を構築する
7.#認知症初期集中支援チーム、#認知症地域支援推進員
認知症の早期診断、早期対応により、認知症になっても住み慣れた地域で暮らせるよう支援する
8.#生活支援コーディネーター
高齢者のニーズとボランティアなどの地域資源とのマッチングにより、多様な主体による生活支援を行う
9.#地域ケア会議の開催
地域包括ケアシステムの構築に向けたケアマネジメントの充実を図るための会議を行う
センターは、全国に4,328か所(ブランチ(支所)、サブセンターを含むと7,072か所)あります。
地域包括支援センターの設置状況
地域包括センター設置数 4,328か所
ブランチ設置数 2,391か所
サブセンター設置数 353か所
センター・ブランチ・サブセンター合計 7,072か所
出典:厚生労働省
市町村直営のセンターは3割に過ぎず、7割は社会福祉法人や社会福祉協議会、医療法人などに委託されています。
センターの運営は市町村直営から社会福祉法人などへ委託する比重が増え、その割合も年々増えています。
「介護離職ゼロ」の推進にあたり、地域包括支援センターの機能強化を図る政府
厚生労働省は、今年9月に行われた第65回社会保障審議会介護保険部会でセンターの機能強化を打ち出しました。
高齢者やその家族からの相談ニーズが高まっているため、土日および祝日の開所、電話対応の充実などが議論されました。
相談体制の強化を図る目的は、政府が掲げる「介護離職ゼロ」の実現を目指すためです。
働きながら親を支えている家族など、仕事と介護の両立に苦慮している人を地域でサポートすることが急務と政府は考えたからです。
一方、この案に対して、委員からは「ますます業務過多になる」「現場はすでに業務過多で忙殺されている」などの意見が出たといいます。
確かに「地域支援事業の包括支援事業及び任意事業における効果的な運営に関する調査研究事業」によると、センターが抱える課題について複数回答で尋ねた際、センターの81.6%は「業務量が過大」と回答しました。
「業務量に対する職員数の不足」という回答も約7割を占め、センターは人手不足に陥っていると見られます。
また、「職員の力量不足」(53.7%)と回答したセンターは約5割に達し、職員の質も大きな課題であると見て取れるでしょう。
さらに、「業務量が過大」の場合の業務内容を見ると、「総合相談支援に関わる業務(69.5%)」「指定介護予防支援に関わる業務(要支援対象者)(66.8%)」「地域におけるネットワークの構築に関わる業務(53.9%)」が挙げられています。
これらの回答からは、政府が期待する「土日の開所」や「電話対応の充実」などセンターによる相談体制の強化は容易なことではないことが見てとれます。
地域包括支援センターは地域ケア会議ほか「中核業務にシフトすべき」という声もあるが…
センターが介護保険制度のもとで創設されたのは2006年のこと。
当時は「総合相談支援業務」「権利擁護業務」「包括的・継続的マネジメント支援業務」「介護予防ケアマネジメント業務」「介護予防支援」の5業務を担っていましたが、翌年には要支援者に対するケアプランを作成する指定介護予防支援事業も加わりました。
さらに、2012年には「多職種協働による地域包括支援ネットワークの構築」が加わり、その中核となる「地域ケア会議」の運営も追加され、最近では「在宅医療・介護連携の推進」「認知症初期集中支援チーム、認知症地域支援推進員」「生活支援コーディネーター」なども担当業務になっています。
これでは、センターから「業務多忙」と言われても、反論するのは難しいと言わざるを得ません。
こうしたなか、社会保障審議会の委員からは、「要支援者のケアマネジメントはできるだけ外部に委託させ、センターが他の事業にもっと関われるようにすべき」「ケアマネジャーへの支援や地域づくりなどセンターはより中核的な業務にシフトすべき」などといった声が上がりました。
要支援者のケアマネジメントをはじめ、外部機関が担える業務はセンターから切り離し、地域づくりに資する総合相談業務や地域ケア会議といった「中核業務」にシフトするのが本来のセンターの姿と考える向きもあるようです。
「職員の力量不足」も地域包括ケアシステム構築の障害に!?要である地域包括支援センターの機能は働くか
センターを運営する市町村および社会福祉法人などの委託機関は、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員の3職種の確保が困難な場合は、「地域ケア、地域保健などに関する看護師」「福祉事務所の現業員などの業務経験が5年以上ある者」などを「準ずる者」として配置することができます。
地域包括ケアシステムを推進するのは、センターの職員自身。
「職員の力量不足」も見逃せない課題です。
厚生労働省によると、「職員の力量不足」を感じているセンターの割合は、5~7割。
「準ずる者」の配置が少ないセンターほど「職員の力量不足」を感じているセンターの割合が低く、5年以上の勤続年数職員の割合が高いほど「職員の力量不足」を課題と感じているセンターの割合が低くなっています。
市町村のなかには、財政難も影響してか、この「準ずる者」を嘱託、臨時職員として雇用しているケースも多々見られます。
こうした身分の違いがチームワークの乱れなどにつながり「職員の力量不足」を感じさせる要因となっているのかもしれません。
「センターは中核業務にシフトすべき」という声も多数上がっていますが、高齢者が激増するなか、今後もセンターの仕事は増え続けると見られます。
センターの働きを最大化するためには、仕事内容の精査だけでなく、生産性の向上のほか、場合によっては増員も選択肢のひとつでしょう。
団塊の世代が75歳を迎える2025年まで10年もありません。
厚生労働省が目指す地域包括ケアシステムが有効に機能するかどうかは、センターの働き如何…とは言い過ぎでしょうか。
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