#2017年4月に迫った要支援者向けサービス移行期限... #介護予防・日常生活支援総合事業

<軽度者(要支援の高齢者)は、介護施設ではなく、「地域で面倒を見る」という体制>

地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が地域の自主性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくものです。


厚生労働省は、2015年の介護保険制度改正で、地域の自主性を促すために「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業と表記)」の導入を決定しました。

7段階ある要介護度のうち、最も軽い要支援1および2の高齢者への訪問介護、通所介護を総合事業に移行し、市町村が実施することが決定しています。

つまり、これまで一律で提供されてきた介護サービスの内容が地域によって変わってくるという話です。

なお、以降期限は「2017年4月」となっています。「総合事業」が導入された背景を探りながら、導入によって私たちにどのような影響があるのか考察します。


総合事業のねらいは「介護予防」と「生活支援」を

両輪で進めること...


「総合事業」の主な目的は2つあります。

1つは「本人の自発的な参加意欲に基づく、継続性のある効果的な介護予防を実施していくことです。

従来は、市町村などが主体となって介護予防を提供していましたが、今後は老人クラブや自治会、ボランティア、NPOなど地域福祉に関わるプレイヤーが核となって、高齢者の介護予防を促進します。


もう1つは「地域における自立した日常生活を実現するために地域の多様な生活支援を地域のなかで確保し、介護専門職は身体介護を中心とした中重度支援に重点化を進めること」です。


高齢者が急増するにあたり、国の介護政策は「施設から在宅へ」移行中。


これまでは、施設介護が中心でしたが、在宅が一般化するに際し、高齢者が地域で安心して暮らせるよう認知症サポーター、地域生活支援コーディネーターなどの仕組みが導入されています。


今後、介護専門職は、「介護の専門家」として、施設などで中重度者をケアする役割を担います。


すなわち、軽度者(要支援の高齢者)は、介護施設ではなく、「地域で面倒を見る」という体制になります。


「総合事業」は、2015年の介護保険制度改正により導入されたもの。

これにより、改正前、要支援1および2の高齢者に対して提供されてきた「介護予防給付(訪問看護、訪問介護、通所介護、福祉用具貸与など)」の一部および「介護予防事業(一次予防事業および二次予防事業)」は、「総合事業」に移行されることとなりました。


これによって、「総合事業」は、「介護予防・生活支援サービス事業」と「一般介護予防事業」に分類されます。


移行期限は2017年4月。しかし依然として「担い手不足」が課題に...


冒頭で触れた通り、「総合事業」への移行期限は2017年4月。目前に迫っています。

しかし、全国の自治体では、移行がスムースに進んでいない実態が明らかになりました。

厚生労働省によると、昨年4月現在、全国で総合事業を実施している保険者(自治体・広域連合など)は32.7%。

地域間格差が激しく、佐賀県においては、全20市町が移行していません。



この原因はさまざまですが、その一端として「担い手不足」が指摘されています。

「総合事業」に移行しようにも、地域福祉の担い手となるボランティアの育成が進んでいないケースや「総合事業」を実施する介護事業所が確保できていないケースもあります。

訪問介護を提供する介護事業所の一部では「総合事業で報酬単価が下がり、事業所が倒産している」「このままいけば廃業を余儀なくされる」などといった声が上がっています。


訪問型と通所型は現行のサービスと

「多様なサービス」に分類される...

厚生労働省の資料によると、「訪問型サービス」および「通所型サービス」は、現行の訪問、通所介護に相当するものとそれ以外の「多様なサービス」に分類されます。


「多様なサービス」とは、下記の表の通り、訪問介護の場合、「訪問型サービスA~D」の4種類に、通所介護の場合、「通所型サービスA~C」の3種類となります。

ここで示した例は、典型的なもので、地域の実情に応じて市町村が独自にサービスを類型化し、それに合わせた基準や単価などを定めることができます。


「訪問型サービスA~D」

「通所型サービスA~C」


その実例を見ていきましょう!!!

2017年度から「総合事業」を開始する大阪市の場合、

「訪問型サービス」および「通所型サービス」は、

以下の通り、それぞれ3種類になります。

「総合事業」の対象者は、要支援1および要支援2の軽度者です。


訪問介護


1.介護予防型訪問サービス

これまでと同様に訪問介護員が身体介護、生活援助を提供する

⇒現行の訪問介護に相当


2.生活援助型訪問サービス

大阪市の研修を修了した従事者などが生活援助を提供する

⇒「訪問型サービスA」に該当


3.サポート型訪問サービス

口腔機能向上および栄養改善が必要な高齢者や閉じこもりがちな高齢者に対し、大阪市の専門職(保健師など)が訪問し、3~6か月間を目途にサービスを提供する。

⇒「訪問型サービスC」に該当


通所介護


1.介護予防型通所サービス

入浴、食事、レクリエーション活動、機能訓練など3時間以上のデイサービスを提供する

⇒現行の通所介護に相当


2.短時間型通所サービス

入浴、食事、レクリエーション活動、機能訓練など3時間未満のデイサービスを提供する

⇒「通所型サービスA」に相当


3.選択型通所サービス

短時間で集中的に(3~6か月間)、運動器の機能向上、口腔機能向上または栄養改善のプログラムを提供する

⇒「通所型サービスC」に相当


次に、すでに「総合事業」を開始している三重県桑名市の例も見ておきましょう。

桑名市の場合、総合事業通所介護は現行の通所介護に相当します。


訪問介護

1.総合事業訪問介護

これまでと同様に訪問介護員が身体介護、生活援助を提供する

⇒現行の訪問介護に相当


2.えぷろんサービス

シルバー人材センター会員による掃除、洗濯、買い物などの日常生活支援を提供する

⇒「訪問型サービスB」に該当


3.おいしく食べよう訪問

訪問による食事相談、献立相談、体重測定などを提供する

⇒「訪問型サービスB」に該当


4.栄養いきいき訪問

管理栄養士による訪問栄養食事指導を提供

⇒「訪問型サービスC」に該当


5.お口いきいき訪問

歯科衛生士による訪問口腔ケアを提供

⇒「訪問型サービスC」に該当


6.「通いの場」応援隊

シルバーサロンなどの利用者の自宅とサロン間の移送

⇒「訪問型サービスD」に該当


通所介護


1.総合事業通所介護

⇒現行の通所介護に相当


2.シルバーサロン

茶話会など地域住民が相互に交流する機会を提供する

⇒「通所型サービスB」に該当


3.健康・ケア教室

医療・介護専門職などが通所による運動、栄養、口腔、認知などに関する介護予防教室を開催する

⇒「通所型サービスB」に該当


4.くらしいきいき教室

医療・介護専門職が送迎を伴う通所による機能回復訓練と訪問による生活環境調整を組み合わせて提供する

⇒「通所型サービスC」に該当


このように、自治体によって利用者に提供するメニューはさまざまです。

今後は、「総合事業」の導入によって、市町村により提供されるサービスの内容が変わってきます。



地域包括ケアシステムの構築に不可欠な「総合事業」が

地域間格差を生む可能性も...

「総合事業」は、「地域包括ケアシステム」の構築に不可欠なもの。

市町村が地域の実情に応じて自発的に介護サービスを提供するよう厚生労働省は仕向けていますが、前述の通り、移行がスムースに進んでいない自治体も多数存在しています。

その一方で、三重県桑名市のように独自の取り組みを進めている自治体もあります。

「総合事業」の導入にあたり、今後は介護サービスの地域間格差が注目されるかもしれません。


「総合事業」は、介護費用の膨張をストップさせるための手段という声も一部では聞かれます。

「総合事業」の導入により、介護報酬が下がる例も散見されており、減収や廃業を余儀なくされるケースもあります。

「総合事業」は、介護サービス充実の引き金となるのか。状況を注視する必要があるでしょう。



田中慶応大教授、地域単位の人員配置基準を提唱 

「介護はより大きな変革が必要」

2017.2.18


「もうひとつ踏み込んだ地域包括ケアシステムにしなければいけない」。

こう呼びかけたのは慶応大学の田中滋名誉教授だ。

17日に都内で行った講演で、今後の急速な高齢化に備えて体制を改良し続けていくことの重要性を強調。

現在は施設・事業所ごとに定めている職員の配置基準を、地域単位で設定することも検討すべきと提唱した。

田中名誉教授は、介護報酬やその基準を議論する社会保障審議会・介護給付費分科会の会長。社保審・福祉部会の会長なども務めており、この分野で国の政策に最も深く関わっている学者の1人だ。


この日の講演では、将来の高齢者数や死亡者数の伸び、ドラスティックに様変わりしていく人口構造などを改めて紹介し、それが社会や財政に与えるインパクトの強さを語った。

「より大きな変革が必要」

「既存の『問題処理型施策』だけで解決できるとは思えない」。

そう明言した。

「もうひとつ踏み込んだ地域包括ケアシステム」という舵取りの方向性は、「役所と研究者の間ででき上がりつつある合意」だという。


「個別ケアを超えて地域の理解を」

各論の中で言及したテーマの1つが職員の配置基準だ。

マンパワーの確保が急増する需要に追いつかないことを念頭に、「考え方の変更も必要」と述べた。

「個々の施設・事業所ごとの基準は、場合によってはあまり意味がない。

必要ないのかもしれない」。

問題意識をこう表現した。


「小学校区、あるいは中学校区で、訪問できる看護師やリハビリの専門職、介護職員がどれくらい存在するのか。地域単位で捉えて人がいればいい」と続け、より合理的な仕組みを模索すべきとの認識を示した。


このほか、多機能・複合型の拠点を増やしていくことの必要性も指摘している。

欠かせない要素としてあげたのは、「個別ケアを超えて地域を理解する職員とそれをリードする経営の力」。

「目の前の利用者に良いサービスを提供するだけでは、地域包括ケア時代の介護人として十分とは言えない。

地域をみられるかどうか。全体のニーズに総合的に対応していかなければいけない」と訴えた。




総合事業の財源

あわせて、総合事業の財源について解説したいと思います。

総合事業の財源構成は先ほどの図表左に記載されているように、

国:25%

都道府県:12.5%

市区町村:12.5%

第1号被保険者:22%

第2号被保険者:28%

という財源内訳となっています。

訪問・通所予防給付事業が総合事業へと移行した後でも捻出される財源やその比率に変わりはありません。


より細かく解説すると、第一号被保険者とは65歳以上の高齢者を指し、自身の所得や世帯等周辺の状況から納める保険料が変動します。

第二号被保険者とは40~64歳の全員を指し、40歳になると65歳まで第二号被保険者として保険料を納めることとなります。

これら被保険者の納税額と国・都道府県・市区町村からの財源の合計が総合事業における介護保険料となります。

事業所としては、利用者による自己負担額(1,2割)および介護保険料(総サービス料-自己負担額)が給付されます。


また、総合事業(図表緑枠)、包括的支援事業、任意事業の3事業によって構成される地域支援事業ですが、包括的支援事業と任意事業の財源構成は先ほど紹介した総合事業の財源構成とは異なります。

こちらも図表左に記載されている通り、

国:39.0%

都道府県:19.5%

市区町村:19.5%

第一号被保険者:22%

という財源内訳となっています。

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