「#介護予防」で市町村が独自性を競い合う!?

要介護高齢者は右肩上がりに急増しています。

厚生労働省の「2014年版高齢社会白書」によると、2012年の要介護高齢者(要支援を含む)は、545万7,000人。

介護保険制度が創設された2001年は、287万7,000人で約2倍にまで膨らんでいます。

それに伴い介護費用も急増中。介護保険制度の持続可能性が危ぶまれる状況です。

団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年には、後期高齢者が2,000万人を突破すると見込まれます。

介護を必要とする高齢者は急増していくなか、要介護にならないよう介護予防の必要性が声高に叫ばれるようになったのは自然なことでした。

2017/02/24




転倒は要介護状態に陥る原因。

スポーツグループに参加し週1回運動すると転倒率は低下する

まず、スポーツを核とした介護予防について見ていきます。

かねてよりスポーツによる高齢者の介護予防を研究しているプロジェクト「JAGES(日本老年学的評価研究)」の研究結果が、昨年9月に「スポーツによる高齢者の介護予防と政策展開に関する提言」として発表されました。

このプロジェクトは、高齢者のスポーツグループへの参加の有無を調べ、転倒率や新規要介護認定率の高低を比較したものです。

64小学区(9自治体)の前期高齢者を(1万6,102人)対象にスポーツグループ参加の有無を調査したところ、転倒率は7.4%~31.1%と自治体間で4倍以上の差がありました。

週に1回以上スポーツグループへ参加している高齢者が多いと、転倒率が低くなるという結果です。


東京消防庁によると、高齢者の事故発生場所でもっとも多いのは「#住宅等居住施設」で、約6割にのぼります。

新聞やテレビでは屋外での事故が取り上げられる傾向があるため、外出時の事故が多いように思われますが、実はそうではありません。


ケガをした原因は、「ころぶ」が8割以上を占めています。

床や畳、家具などにつまずいて、転倒するケースが多いことがわかります。

打撲やすり傷程度であれば時間の経過とともに治癒するため、あまり気にする必要はないかもしれません。

しかし、自宅内で転倒した高齢者のうち、約1割は骨折しているとなれば看過できません(「下半身の骨を折った」と「上半身の骨を折った」の合計)。

というのも、要介護認定となる理由の約1割は「骨折・転倒」だからです。

特に下半身の骨折は、寝たきり生活の原因になりますから、転倒率を低下させることは介護予防へ寄与します。


スポーツグループへの参加は、ほかの社会参加活動より介護予防に役立つ

先に述べたプロジェクトは、スポーツグループへの参加率が高いほど、2年後の新規要介護認定率が低下するとデータで明示しました。

さらに、趣味や町内会、ボランティアなど社会参加活動は多様ですが、スポーツグループへの参加が最も介護予防に寄与するという結論も提示されています。

スポーツグループの参加者は、不参加者に比べ要介護者が34%少ないとわかりました。


また、運動はスポーツグループに参加して行ったほうが要介護状態になりにくいことも示しました。

運動をしていてもスポーツグループに参加してい高齢者は、参加している高齢者と比較して1.29倍要介護状態になりやすいと気づくでしょう。


一般的に、運動時間が長いほど体力水準が高まるとされています。

体力水準が高まれば、介護予防にも役立ちます。

文部科学省の体力・スポーツに関する世論調査(2015年1月調査)によると、高齢になるほど「週に3日以上(年151日以上)」スポーツを行っている人の割合が高くなる結果が出ています。

70歳以上では、半分以上が週に3日以上スポーツを楽しんでいます。


介護保険制度から“卒業”した高齢者の自立をサポートする埼玉県和光市

ここからは、埼玉県和光市における介護予防の事例について見ていきましょう。

和光市の要介護認定率(2015年)は9.3%です。

要介護認定率の全国平均は18.0%で、全国的に高齢者が増えていることを鑑みると、その低さが際立っているとわかるでしょう。

下記は、和光市の介護保険制度を図示したもの。市や介護支援専門員、介護サービス事業者、管理栄養士、薬剤師などが参画するコミュニティケア会議における提言をベースにしています。

介護サービス事業者は、サービスを提供する段階で、高齢者に対し到達目標とサービスの内容および実施期間を確認。

目標に到達すれば、サービスが終了すること(これを“卒業”と呼ぶ)を事前に予告します。


和光市の介護サービスを、通所介護を例にとって説明しましょう。

介護サービス事業者は、通所介護導入時に、到達目標「バスに乗れる」ことを想定し、高齢者に介護サービスを提供します。

サービス中は、バスステップに見立てた段差の昇降訓練を行うなどします。

“卒業”した高齢者は介護保険制度ではなく、介護保険制度が使えない地域支援事業に移行。結果、要支援・要介護高齢者が減少するという流れです。


しかし、“卒業”後に再び要介護状態になっては意味がありません。“

卒業”後は、高齢者福祉センターや地域包括支援センターなどが協働して、マシントレーニングや運動教室、ヨガなどの運動プログラムのほか、カジノ、ゲーム、囲碁クラブ、料理教室などを提供し、介護予防を図っています。


現行の介護保険制度では、要介護度が高いほど介護事業者に支払われる報酬が多くなります。

そのため、介護事業者が要介護度の改善に消極的になりやすいとされます。

今でこそ、リハビリなどに注力し要介護度を改善させた事業者には市町村から報酬を得られるようになりつつありますが、従来は、改善させたとしても報酬が低くなる、というジレンマがありました。


このジレンマに対応するため、和光市は、高齢者が“卒業”しても介護サービス事業者の収入減とならないよう、介護報酬の対象とならない地域支援事業に独自財源を投入する仕組みを構築してきました。


政府は介護予防の先進事例を全国に普及させる方針。市町村の底力が試される時代に

政府は和光市のような先進事例からノウハウを抽出し、全国の自治体が取り組めるよう支援していくねらいです。

2016年~2017年は、モデル県やモデル市町村での成功事例を創出する年度。

併せて、「#地域づくりによる介護予防の推進」や「#地域リハビリテーション活動支援事業」「#専門職との連携体制構築」なども進めます。

2018年以降は、成功手法を全国へ展開し、2021年には1,718市町村にまで取り組みを広げる方針です。

これらのことから、国主導の介護サービスを減らし自治体へシフトしていくことが見え隠れしています。

「#地域包括ケアシステム」の御旗のもと、介護保険の保険者である市町村が介護の主役になりつつあります。

介護予防の内容も市町村次第。介護財政がひっ迫するなか、今後、要介護高齢者を量産した自治体へペナルティを課す、ということになりかねません。

生活保護では、市町村による“水際作戦(保護申請を拒否すること)”が批判され社会問題になっています。

介護でも同じことが起きてしまうと危惧するのは、考え過ぎでしょうか。

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