#介護助手導入で介護現場は変わるか? #元気な高齢者を「介護助手」として雇用...
厚生労働省によると、介護職の月別の有効求人倍率は2014年以降、およそ2倍台をキープ。2015年12月に3倍台に突入し、昨年11月時点では3.40倍に到達しています。
全職種平均の有効求人倍率は1.31倍であり、この数字は人手不足の実態を如実に物語っていると言えるでしょう。
2017/03/02
厚生労働省が先月開催した「#第4回介護人材確保地域戦略会議」。
この会議で「都道府県における先駆的な取り組み事例」として紹介されたのが「介護助手」でした。
三重県老人保健福祉協会は、地域の“元気高齢者(60~75歳くらい)”を「介護助手」として導入、「人手不足の解消」と「介護職員の“専門職化”」を図っています。
「介護助手」導入の狙いは以下の3点にあります。
1.介護人材の確保
介護の担い手を増やす。
人手不足の緩和によって、介護職員の労働環境(ワークライフバランスの充実。
休日、休暇を取りやすくする)を改善させる。
さらに、介護職を“専門職化”することにも役立つ(詳細は後述します)。
2.高齢者の就労先の拡大
高齢者の新たな就労先の確保。低年金を余儀なくされている高齢者もおり、就労することで生活費を稼いでもらう。
介護は、住み慣れた地域で自分にあった時間に働ける仕事であり、高齢者に合っている。
3.介護予防
働くことそれ自体が介護予防につながる。
高齢者自身が、介護施設で要介護高齢者の現状を知り、自己の健康管理に役立てることができる。
また、要介護高齢者の増加を抑制することで、介護保険財政の安定化も図る。
下記のグラフは、三重県の介護人材需給推計を表したもの。
2025年には3,604人もの介護人材が不足する見込みです。
特に訪問介護員の人手不足は深刻で、全国平均より8.6ポイントも不足すると予想されています。
三重県は“元気高齢者”に「介護助手」として就労してもらい、少しでも人手不足を解消しようとしています。
「介護助手」の業務を3つに分類。
三重県では導入に前向きの意見も
果たして、「介護助手」はどんな業務を行っているのでしょうか。
三重県老人保健施設協会によると、「介護助手」の業務内容は下記の3つに分類されます。
【Aクラス】
一定程度の専門的知識、技術、経験を要する比較的高度な業務
(例)
・認知症高齢者への対応
・見守り
・話し相手
・レクリエーションの手伝い
【Bクラス】
短期間の研修で習得可能な専門的知識や技術が必要となる業務
(例)
・ADL(日常生活動作)に応じたベッドメイキング
・配膳時の注意
【Cクラス】
マニュアル化、パターン化が容易で、専門的知識や技術がほとんどなくても行える業務
(例)
・清掃
・片づけ
・備品の準備
三重県は1年間かけて「介護助手モデル事業」を実施。
県内8介護事業所で一般市民向けにこの事業の説明会を開催(新聞折り込みチラシで周知)したところ、251名の参加者(女性が8割を占め、平均年齢は69歳)が集まりました。
そのうち、選考へ申し込んだのが147名(このうち約3割が看護師や介護福祉士、介護業務経験者)で最終的に57名が採用されました。
その後、採用された高齢者は、3か月の有期パートとして各々の介護事業所と雇用契約を締結。
「介護助手」として育成され、「介護現場がどのように変化するか」実験が行われました。「介護助手」導入後に寄せられた現場の声は以下の一部を紹介しましょう。
・介護職員の業務から周辺業務を切り離し、「介護助手」に担当してもらった結果、これまでより周辺業務が効率的に行えることがわかった。
・「介護助手」にシーツ交換をお願いできたことで、心に余裕をもって見守りや認知症高齢者に対応できるようになった。
・食後の排せつ介助、臥床介助の間に、フロア内の片づけを担当してもらえるので、時間的余裕ができる。
・高齢者「介護助手」ならではの利用者とのコミュニケーションができており、入所者が「介護助手」を慕っている様子がうかがえる。
「介護助手」を導入するためには、「介護助手」に適した業務を切り出して命じる必要があります。
「介護助手」が担う業務を抽出する過程では、介護職員間のディスカッションなどが適宜行われるでしょう。
こういったコミュニケーションが業務改善のきっかけとなり、生産性の向上などに寄与する可能性もあります。
ちなみに、厚生労働省による三重県と全国の有効求人倍率を、以下の図のようなことで判断ができます。
このように、有効求人倍率は年々高い値で推移しており、三重県は全国より高い水準にあたることが窺えます。
介護福祉士は介護現場のリーダーとして高度な業務に注力する
「介護助手」導入の狙いのひとつに「介護職員の“専門職化”」があります。
その背景は、昨年10月に開催された第6回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会の資料を見るとよくわかります。
介護現場には、介護資格を有していない者、介護職員初任者研修修了者、介護福祉士の3者が混在し業務を行っていることは、実務に触れている人ならよく知っていることです。
それぞれの者が専門性の有無を問わず同様の業務をほぼ毎日行っているため、「介護福祉士資格があってもなくても同じ」などと介護現場で揶揄されることもあります。
ここに来て、厚生労働省はこうした実態を疑問視。
現有介護人材を十分に活用するためには、業務レベルに応じた「介護人材の類型化、機能分化が必要」と社会保障審議会で提案しました。
つまり、「介護人材の能力に応じて担当業務や役割を変える」という話です。
これまでは、介護人材の意欲、能力の有無を一律に捉え、量的確保を目指してきただけに「質」へと方針を大きく転換したと言えるでしょう。
下記は、介護人材のキャリアパスの全体像を図表化したもの。
この図を見ると、
「知識・技術をそれほど有していない介護職」
「一定程度の知識・技術を身につけた介護職」
「介護福祉士」
「一定のキャリアを積んだ(知識・技術を習得した)介護福祉士」
の4段階に類型化されていることに気づくでしょう。
国家資格者である介護福祉士を中核的人材として位置づけているのがこのキャリアパスの特徴。
介護の専門職である介護福祉士がチームケアにおいてリーダーを担い、チーム内の介護職に対する指導やケア品質の向上に寄与することを想定しています。
今後のあるべき介護福祉士像を明確化したとも言えるでしょう。
「介護助手」をこの文脈で理解すると、導入の背景がわかりやすくなるはずです。
すなわち、「介護助手」は「知識・技術をそれほど有していない介護職」「一定程度の知識・技術を身につけた介護職」として職務を遂行します。
その一方で、介護福祉士は介護の“高度専門職”と位置付けられることになります。
今後、介護福祉士は、チームビルディングやリーダーシップ、ホスピタリティ精神などがより一層問われるようになるでしょう。
介護の資格はすでに乱立状態。
「介護助手」は今後普及するか?
看護では「看護助手」(食事介助や配膳、入浴介助、院内の整理整頓などを担当)がすでに導入されており、全国医療福祉教育協会による民間資格「看護助手実務能力検定試験」もあります。
「介護助手」の普及段階では、このような検定試験の導入も課題となるでしょう。
「介護助手」の理念は理解できるものの、すでに介護資格は多様化しており、求職者にとっては「どの資格を取れば介護に活かせるのか」わかりにくい状況にあります。
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