#日本全国の郊外で“富の二極化”が拡大
週末にもかかわらず子供の姿さえ見当たらない無人の公園、人通りもまばらなうえ高齢者ばかりが目につく商店街、画一的に並んだ、空室の目立つ団地――。
’70年代以降、首都圏で有数の新興住宅地として賑わいを見せた多摩ニュータウンの団地群。
居住者の大半を占めた団塊世代の高齢化に対し、若い世代の流入は右肩下がり。
“世代交代”が行われず、時代に取り残されたかのような物寂しい光景が広がっていた。
「こうしたケースは多摩ニュータウンに限った話ではなく、日本全国で起きつつある問題です。家を買う人も借りる人も絶対数が減っている今、活気があり富が集中するエリアと貧困が集中するエリアの“二極化”が進んでいるんです」
そう語るのは、不動産コンサルタントの長嶋修氏。
いわく、二極化の基準は“駅から徒歩7分以内か否か”なのだそう。
「多摩ニュータウンしかり、同じような問題を抱えて地価下落率がワーストとなった千葉県柏市の大室地区しかり、駅周辺は今でも大きなマンションが建ったりと活気があるんですよ。ですが2~3km離れてバス移動が必須となると極端に人気がなくなり地価は下落する一方。ただでさえ空き家の増加が問題視されている今では、どうしても利便性の高い都心部、駅近の物件へと人口が集中します。こうした傾向が続けば、駅から距離のある郊外の住宅地はどこであれ、スラム化のリスクが高いんです」
需要が減り、地価が下がると住宅価格や家賃も下落。
そうなると新たに流入してくる若い世代はおのずと低所得者層ばかりとなり、その地域に貧困が集中する状態に陥ってしまうわけだ。
「いまや、田園調布のような高級住宅地も油断できない状況です。かつては富裕層が集まる街でしたが、車の送迎が前提じゃないと住めないためお金があっても若い層は寄り付きません。しかも最低敷地面積が定められているため、小さな家を建てられず、中流家庭も入ってきづらいんです」
さらに、自治体の施策もこの二極化に拍車をかけているという。
「少子高齢化時代においては、自治体の税収はどうしても下がってしまいます。人がまばらにしか住んでいないエリアのためにインフラ施設を修繕・更新するのでは財政がもたなくなるため、コンパクトなエリアに住民を集めようと『居住誘導地域』を定め、そのエリアの開発に注力します。
こうした『#立地適正化計画』から外れた地域はインフラ修繕などが後回しになり、なかば放置されるように。
結果的に、同じ生活圏であっても富裕層と貧困層の“二極化”が色濃くなっていくんです」
話を多摩ニュータウンに戻そう。この地域に36年住む田中明子さん(仮名・72歳)に話を伺った。
「ご近所さんは亡くなられる人も増えましたし、最近は別の棟で孤独死があったと聞きました。残ったお年寄りはみんな年金生活ですし、今さら出ていけない。ただ、ウチは4階ですがエレベーターがないから階段がツラくて……」
続いて話を伺ったのは、商店街で買い物をしていた秋山正さん(仮名・36歳)。
「この団地で育ち、今は母親と二人暮らしです。
緑は多いし団地内のスーパーで買い物もできるから生活しにくいってことはないんだけど、自分を含めリッチな人は住んでないですよね。
新しく入ってくる家族もいますが、正直稼ぎが多そうには見えないし。
言い方は悪いですが、新しい人はゴミ出しの仕方とかマナーが悪かったりね。
あとはやっぱり建物が古いですよね。でも、建て替えはどうしても無理みたいで……」
こうした地域は黙ってスラム化するのを待つしかないのだろうか?
「北海道の下川町は人口3000人ほどの田舎ですが、バイオマス発電事業で公共機関の電気代や灯油代を大幅に削減し、浮いた費用を子育て支援に回すことで転入者が増えています。
周辺地域の地価が大暴落するなか、昨年ついに下川町だけが下げ止まったんです。
同じように千葉県流山市も住民の高齢化の進む街でしたが、駅の構内に子供を保育園まで送迎してくれる施設を造るなど、子育てしやすい街をアピールすることで最近は総人口が右肩上がりの状態です」
自治体の方針で街の未来を変えることはできる。
しかし、多くの地域は「地価の下落→低所得者の流入」という貧困のスパイラルから抜け出ることは困難なのだ。
敷金、礼金が払えない…
貧困層が暮らす“新たなドヤ街”が都心に出現している...
労働者に日雇いの仕事を斡旋する「寄せ場」、日雇い労働者のための簡易宿泊施設が立ち並ぶ「ドヤ街」。
過去の遺物のように思われがちなこれら地域だが、今も姿を変え脈々と残り続けているという。
「現在は日雇い労働もネットでマッチングする時代です。かつての寄せ場がネットの中に移ったことで、労働者たちもドヤ街のような特定の地域に集まる必要がなくなりました。とはいえ、定住する家を持てない貧困層そのものがいなくなったわけではなく、現在でも都心の格安ゲストハウスやネットカフェを転々としながら生活する貧困層は少なくありません」
そう語るのはNPO法人「もやい」の大西連氏。
10年前に「ネットカフェ難民」という言葉が流行したが、現在はネットカフェのみならず料金を極端に抑えたゲストハウス、シェアハウスを拠点にするケースが急増しているのだとか。
「傾向として、彼らは労働現場までの交通コストが抑えられる都心部やターミナル駅付近に集まりやすい。そのため、新宿や池袋、上野などの都心まで徒歩圏内のエリアにはゲストハウスやシェアハウスが数多く誕生しています。
なかには個人が借りた部屋に仕切りを設け、民泊と同じ要領で貧困層向けゲストハウスを運営している脱法的な例も。
シェアハウスといっても、1人あたり3畳ほどしかない相部屋パターンも多いようです」
ネットで検索すると、たしかに新宿や池袋などの都心徒歩圏内に1泊2000円程度のゲストハウス、1か月2万円~のシェアハウスが数多く存在していることがわかる。
我々が取材したのは、今年4月からゲストハウスを転々とする生活を送っている明石雄二さん(仮名・26歳)だ。
「アルバイトとして働いていた都内の飲食店で正社員登用されたんですが、休みのない日々に疲れ今年1月に辞職。その後なかなか仕事が見つからず、家賃を滞納して結局4月に退去しました。それ以降はこうしたゲストハウスを転々としています。現在はポスティングやイベント会場設営などの単発アルバイトで月収は平均10万円ほど。履歴書不要の募集も多いので、家がなくてもやっていけてます」
この日の彼の寝床は上野駅近辺のゲストハウス。上野は浅草に近いため、外国人観光客の利用も見込んだゲストハウスが多いという。
料金は1泊2000円。
いくら安いとはいえ、連日泊まるとなると単身者向け賃貸物件の家賃と大差ないほどの出費になるように思うが?
「もちろん部屋を借りたいですが、どうしても敷金、礼金などの初期費用がかかってしまいますよね。毎月ギリギリの生活なので、その資金を貯める余裕がないんです」
労働人口における非正規雇用の割合は4割を超えたとも言われる昨今。
今後も増加が続けば、それに比例するようにこうした定住できる家をもたない低所得者層が集まる“新たなドヤ街”が都心を取り巻くように増え続けていく可能性は高いだろう。
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