#ユマニチュードの本場 #古城を利用した仏の老人ホーム... 老人ホーム「#ルモイ城」 #終の棲家


パリから南へ約25キロ。広大な草原に「ルモイ城」がそびえる。ここに城壁が築かれたのは、18世紀のこと。なんと、築年数300年以上の歴史を持つ城。

その一部は国の重要文化財に指定されており、ゆえに今まで、当時の姿を変わりなく守り続けてきた。

そして1983年、この城は高級有料老人ホーム『ル・シャトー・ド・ルモイ』として生まれ変わった。 #ルシャトードルモイ


欧米諸国の高齢者施設を取材してきた、ジャーナリストで社会福祉士の殿井悠子さんが、各国でユニークな取組みをしている高齢者施設を紹介。2017.05.24

古城で暮らす、ユニークな終の棲家


個人主義の国・フランスでは、

長きにわたって横並びの老後ではなく、ひとりひとりが自分の望む老いの暮らしを求めてきた。

そのため早くから、他のヨーロッパ諸国にさきがけて、さまざまな民間施設が設立され、特に「1982年法」が制定されてからは、その動きに拍車がかかっていった。


この法律は、高齢者福祉に関する権限を国から県に移譲するというもの。自由度が高くなったことで、いっそう新しい試みが可能となり、各地で特色ある高齢者施設が次々に誕生していった。

日本でも「老いを自己選択する」風潮が出てきたので、フランスの施設のあり方は参考になるかもしれない。


今回取材した老人ホーム「#ルモイ城」で、オープン当初から販売・広告部門のマネージャーをしている、マリー・クリスティーヌ・カイリューさんが話をしてくれた。

「入居者のみなさまが、ここでの生活や様々な活動を楽しみ、生きる喜びを感じてもらえるように、私たちスタッフは最善の努力を惜しみません。入居者の方々は、ご家族に会いに元の家にお出かけされても、『ルモイ城に帰ってくるとホッとする。やはりここが、私の終の棲家だ』と、みなさん口をそろえておっしゃいます。スタッフ冥利に尽きる言葉です」


8ヘクタールの敷地で思い思いの暮らし

8ヘクタールにも及ぶ敷地内では、入居者が思い思いの時間を過ごしていた。

敷地のそこかしこにめぐらされた小道を、電動車椅子を使って自由に散策している人がいると思えば、ベンチに腰掛けのんびり日光浴中の人もいる。

図書館に行くと、司書として満足そうにきびきびと働く高齢の女性が、「ルモイに入って、自分の役割をやっと見つけたわ」と話す。

この女性は入居者の一人。

昔から本が大好きだったので、いつか図書館で働いてみたいと思っていたという。

ちなみに所蔵されているすべての書物は、多くの入居者から寄贈されたものだ。

カイリューさんはこう説明する。

「この女性のように、やりたいことや得意なことがあれば、入居者の方にも業務をお願いしています。ここへ来て生きがいを見つけられる方は、たくさんいらっしゃるんですよ。入居者の方々には、自分の家のようにイキイキと、くつろいだ生活を送っていただきたい。そのために、設備も万全に備えています」

お城らしいシャンデリア、大理石の暖炉そのままに

「ルモイ城」では、らせん状に伸びる階段や、こうこうと輝くシャンデリア、大理石の暖炉など、城ならではの贅を凝らしたつくりはそのままに、その他の設備は、入居者のニーズや要介護度に合わせて、何度も改修工事を重ねてきた。

例えば、以前オレンジを栽培していた温室や馬小屋だった建物は、作業療法室や図書室、講演会などを行うホールに様変わりした。


キリスト教文化圏では欠かせないチャペルは、ホスピス機能も

館内の奥に向かって歩を進めていくと、一番奥の部屋からひんやりとした静寂な空気が流れてきた。

そこは、重要文化財に指定された礼拝堂。

中に入ってみると、見上げるほどの高い天井の空間に、ステンドグラスから光が差し込んでくる。

歴史の重厚感と優美さを兼ね備えた礼拝堂で、人生を振り返る人も少なくないとか。

毎週金曜日の午前中には、司祭が招かれて礼拝がとり行われ、大勢の入居者が集う。

「入居者のほとんどが、ここで最期を迎えます。この教会はホスピスの機能も担っており、入居者の心のケアをしてくれる牧師さんの存在はとても重要なのです」


180ある居室の造りはシンプル。別荘として利用する人も

古城を利用した施設の居室はどうなっているのか? 

見せてもらうと共有施設に比べ、意外とシンプルな造りだ。全部で180室あり、要介護度や症状に合わせて13のセクションに分けられている。

セクションの分け方は、施設オリジナルの約20項目の簡易スケールで点数を付けて行われる。

それぞれのセクションには、看護師や介護士、管理栄養士など専門職のスタッフたちが10名ずつ配置され、医療ケアまで対応する。


1か月の利用料は、自立した生活ができる人で約3,000ユーロ(約37万円)、寝たきり状態のような症状が重い人で約3,500ユーロ(約43万2000円)。

この中には居室料金の他に、介護費や食事代が含まれる。

居室の料金は、16平方メートルの個室で94ユーロ(約1万1600円)、29平方メートルの2人部屋で160ユーロ(約1万9700円)である。

家具は持ち込み自由で、約半数の人が内装を自分好みにしつらえている。

入居者の中には、ここを別荘のように利用している人もいるのだとか。


服薬管理はハイテクを利用

さらに、入居者の高齢化に伴い、認知症の入居者が増えてきたので、新設で認知症ユニットを改装中とのこと。

これは日本と同様、認知症の人のペースを乱さないように、生活スペースを他の入居者と区別する配慮から。

さらに、服薬管理を徹底するため、ハイテクを利用したネットワークシステムを導入した。

スタッフが薬袋のバーコードをかざすと、パソコンに入居者の顔写真が表示される。

その写真と薬箱に貼り付けている顔写真とを照らし合わせて、スタッフから本人へ確実に薬を渡すというシステムだ。

スタッフが薬を飲んだことを確認し、パソコンに記録を入力するまで、画面を閉じることはできない。

二重のチェックを設けたため、人為的なミスは起きていないという。


ユマニチュードでスタッフの団結力も高まる


数年前からは、「ユマニチュード(※)」のメソッドも取り入れている。

「ユマニチュードは、ケアの技術力の向上が目的ではなく、スタッフみんなの団結力を高めるために導入しました。コミュニケーションの指針のようなものですから、ケアスタッフだけではなく、事務員も実践しています。スタッフ自身が『#自分の親を入居させたい』と、心から願うようなサービスを実現するために、この他にも指導者の育成をはじめ、内部・外部研修も積極的に実施しています」


フランスも日本と同様に、介護職員の離職率は高いという。


一方、入居者にとっては、慣れ親しんだスタッフに暮らしのサポートをしてもらうことが、一番の安心につながるはず。

そのためにも、理想や哲学を介護現場で技術にかえていく職場での教育は、欠かせないのだと思う。


今回は、歴史が息づくルモイ城を“終の棲家”として紹介した。

ここでは、正門は24時間開放されている。

安全面で不安はあるが、「入居者に開放感を持ってもらいたいから」という理由は、自由を愛するフランスらしい。

取材時には、子どもたちが中庭の公園に遊びに来ていて賑やかだった。


ヨーロッパの貴族文化を花開かせたフランス。

晩年を「城で暮らす」という、壮大でユニークな夢を叶えた暮らしは、「自分が理想とする老後の暮らし方」について考えることはもとより、

「どういう人生を送りたいのか?」

「あなたが叶えたい夢は? 持ち続けたいロマンは? 愛は?」

そんな問いに即答できるフランス人だからこそ、理想を追い求め、叶えることができた“暮らしの形”と言えるのかもしれない。


※ユマニチュードとは

フランス人のイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によってつくり出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法。

日本でも認知症ケアに効果があると話題になっている。

ユマニチュードは、「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術から成り立つ。

内容は、正面から同じ高さで目を合わせる、触れる、話しかけるという、“人間らしさ”を尊重する基本的な事柄。

Park Shin Hye - Perfom with Yong Hwa, 박신혜 - 함께 공연하는 신혜(규원)과 용화(신) @ Heartstring


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