老後の住まい(6)... #コトナハウス #次世代下宿

1――「コミュニティ型賃貸住宅」に「共感コミュニティ」をプラスする

2017年03月04日

「#コミュニティ型賃貸住宅」は、入居者同士や入居者と地域住民とのコミュニティを育む賃貸住宅のことで、最近、少しずつ導入事例が増えている。


まちづくりレポート|多摩に広がる共感コミュニティ

その頃から、「コミュニティ型賃貸住宅」と「共感コミュニティ」を足すと、さらに地域にとってよい効果をもたらすのではないかと考えていた。

つまり、コミュニティ型賃貸住宅に、「地域に開かれた場所」を設けて、住人と地域の人、様々な背景を持った人との共感コミュニティを育む。

そうすれば、単にそこに暮らしているだけでは得られない多様なつながりを持った、共助の関係に前向きな世帯が、地域の担い手になっていくのではないか。


2015年4月にオープンした「コトナハウス」(*1)は、まさにそのような場と言える。


2――コトナハウス-子どもと大人が学び合う場

1|地域に開かれた場所が備わったシェアハウス

コトナハウスは、東京都国立市の、JR南武線谷保駅から5分ほど歩いた商店街にある。「ダイヤ街」と大きく表示されたアーケードの入り口を入るとすぐに、「コトナハウス」と書かれたガラスの引き戸が眼に入る。

引き戸の外から中の様子がよく見え、少し広めの玄関といったタタキの間に続いて、居間のような部屋がある。そこで女性と男性がテーブルを前にお茶を飲みながら、おしゃべりしているようだった。

「こんにちは」と言って中に入ると、「こんにちは、どうぞー」と返してくれ、上がるように促してくれた。そこに、奥からもうひとり小柄な女性が出てきてあいさつしてくれた。

コトナハウスを運営する落合(おちあい)加依子(かよこ)さんだ。

落合さんによると、この居間のような場所は「#チャノマ」と呼んでおり、「地域の人と住人が使い合う場所」と説明してくれた。チャノマの脇にはキッチンがあり、キッチンの奥にはシェアハウス住人用のリビングがある。

リビングから階段を上がった2階が住戸という構成だ。

4つの住戸のうち3つは個室で、1つはドミトリー(相部屋)になっている。

ここに現在5名が入居している。

シェアハウスの中に、チャノマという地域に開かれた場所が備わり、全体が「コトナハウス」である。

落合さんはコトナハウスを、「子どもと大人が一緒に学び合う場」と考えている。

近所の子どもがここに集い、住人である大人と出会って一緒にワイワイと遊び、語り合う。そこから子どもも、大人も様々なことを感じ取り、学んでいく。

だからこそ住宅の中にチャノマがあることが重要だという。

さらには、商店街にあることで、誰でもフラリと立ち寄りやすく、地域の人ともつながりやすい。

このようなコトナハウスのあり方に共感した人がシェアハウスに入居する。



落合さんは、以前から「子どもたちにとってあったかい家」のような場所を持ちたいと考えていた。

そこに子どもも、大人も自由に集い、好き好きにくつろいで過ごす。

自分自身もそこでしたいことをしながら、皆と一緒にいる時間を楽しむ。

その考えに共鳴してくれた建物オーナーと一緒にこの場所をかたちにした。


「みんなが楽しんでくれることをしたい。それが私にとっての幸せだと考えて始めた。

私とオーナーさんとで始めた場所だけど、他の人もここが好きだと感じて来てくれるとうれしい」と、コトナハウスへの思いを語ってくれた。


2|チャノマの運営

チャノマは、「チャノマ―」と呼ばれるメンバーと住人とで運営している。

チャノマ―になると、チャノマの留守番や、チャノマを使った活動ができる。

チャノマ―は現在12名、ほとんどが近隣に暮らす人だ。

月会費(*2)の他、チャノマを使って活動するときは1時間あたり500円を支払う。

ご飯をつくってみんなで一緒に食事をする「となりでごはん」という取り組みや、ベビーマッサージ、リトミックダンスなどが、チャノマ―によって定期的に行われている。

留守番だけのチャノマ―もいる。

土、日曜日の午後、13:00~16:00は極力チャノマを開けていて、その時は誰でも入ることができるが、必ず留守番を2名置くようにしている。

留守番をするチャノマ―は、訪れた人たちと会話したり、時には子どもと一緒に遊んだりして過ごす。

ここで何かをしたいというより、人と接することが好きで、人が自由に集うこの場所そのものに共感する人たちだ。


3|学びあうための主催プロジェクト

コトナハウスが主催する取り組みも行っている。

2015年は、子どもたちが紙粘土でお菓子の家をつくる、「おかしのいえプロジェクト」を半年ほどかけて実施した。

2016年1~3月に、商店街を舞台に実施した「テラコヤプロジェクト」は、子どもたちがお店の人にインタビューし、その内容をまとめたカードを取材に応じてくれたお店にプレゼントするという企画だ。

参加した子どもたちは延べ50~60人。

プロの編集者から取材方法を学び、お店の人から地域のことを学ぶ機会になった。


3――コトナハウスの住人は地域の担い手となるか

オープンしてからこの間、入居者も少し入れ替わり、落合さん自身も最近、パートナーを得たのを機に近くのマンションに引っ越した。

相手は一緒にコトナハウスに入居していた方だ。

現在は2人でコトナハウスの運営に携わっている。

落合さんは、オープンから約2年経過して、「コトナハウスに行くことが楽しいと思ってくれる人が増えてきた。居心地よく過ごせる場になってきた」と評価する。


商店街の人にもようやく知られるようになってきたという。

商店街の新年会をコトナハウスで実施するなど、商店街一員としての配慮も怠らない。


チャノマ―のひとりLさんは、「チャノマを開けていると、近所の子どもが来たり、親子連れがフラッと入ってきたり。入ってこなくても、立ち止まって覗いていく人がいて、商店街の空気を動かしている」と教えてくれた。


住人のYさんは、「外から帰ってくると、いつも誰かいるし、初めて会う人も多いので、毎日ワクワクしながら暮らしている」、「ここに住んで人とのつながりが広がった。住んでいなかったらそれはなかったと思う。

コトナハウスは、縁をつなぐ場所、広げてくれる場所だ」と話してくれた。


こうして話しを伺うと、共助の関係に前向きな住人が、チャノマで育まれた共感コミュニティを通じて、実際に多様なつながりを得ていることが分かる。


今後、コトナハウスを出てからも近くに暮らし、地域の担い手になっていくのだろうか。

現在の入居者は全員20代で単身。

学生もいるため、この先ダイレクトに地域の担い手として活躍する姿は描きにくい。


しかし、落合さんとパートナーがそうであるように、いずれ愛着を持ったこの地で世帯形成し、地域の担い手となる住人も登場するのではないかと感じる。


落合さん自身は、けっして地域をよくしたいと思ってコトナハウスを始めたわけではない。

落合さんが、「みんなが楽しんでくれる顔が、私の幸せ」と言うように、いわば、自分自身のためにしたことで、ここに集う人を楽しませている。

その状況が、地域の雰囲気を明るくすることにつながっているのではないか。

Lさんが、「商店街の空気を動かしている」と表現したのはそのことだと思う。


自分の興味関心で始めたことが、人のためにもなり、地域にも好ましい影響を与える。

運営する人、利用する人、地域の人の3者にとって幸福な状況をつくろうとしている。

それを始めた落合さんは、既に新たな地域の担い手と言えるだろう。


住人とチャノマ-も、チャノマの運営を通して、共感コミュニティを育んでいる点で、新たな地域の担い手と考えていいのではないか。

だからこそ、いったんコトナハウスを巣立ったとしても、今度はチャノマ-として運営に参加する、あるいは、また別の共感コミュニティをつくるなどして、住人が新たな地域の担い手となっていくことは、十分期待できると思うのである。



高齢者+若者=支え合い 京都で“次世代下宿”広がれ

2017年02月25日

高齢者が自宅の一室を若者に貸し、交流しながら同居する次世代下宿「京都ソリデール」事業を京都府が進めている。

1月に京都市北区で初の同居が始まった。

若者と高齢者が支え合う新たな試みで、学生が全国から集う京都で今後、どこまで広がり定着するのか、動向が注目される。


次世代下宿はヨーロッパ発祥で、日本では福井県や東京都でNPO法人などが既に取り組んでいる。

ソリデールはフランス語で「連帯(の)」の意味。

若者は低家賃で下宿ができ、高齢者には見守りや住居の有効活用という利点がある。

府は若者の将来的な定住化につなげたい考えで、2015年度から事業を準備してきた。

下宿する部屋の整備などにかかる住宅改修費用を最大90万円まで補助する制度も設けた。


1月に初の同居が始まり、京都工芸繊維大(左京区)1年の岡本和哉さん(19)が、北区西賀茂の水野良樹さん(68)と美代子さん(71)夫妻の家に同月8日から住む。

岡本さんはそれまで、実家の奈良県大和郡山市から片道1時間半かけて大学に通っていた。

「ぎりぎり通える距離だが、学業や所属する学生団体の活動を考えると下宿したかった」と話す。

水野さん夫妻は過去にも友人の子どもの下宿を経験しており「2人暮らしより、若い人がいた方がにぎやかで楽しい」と今回引き受けた。


家賃は月2万5千円。

家でのルールはあえて決めず、不都合が生じた時に話し合う。

生活は順調といい、美代子さんは「家族ではないので適度な気遣いは必要だが、お互いの気が合うことが大切」と感じている。

岡本さんは「大学まで自転車で片道30分になった。

今まで朝も夜も余裕はなかったが、水野さんとゆっくり食事も楽しめるようになった」と喜ぶ。


 同事業は22日現在で独居を含む8世帯の高齢者が受け入れ先として登録し、15人の学生や大学入学を控えた高校生が同居希望を届け出ている。

学校との距離など双方の事情を踏まえ、今マッチング作業中だ。

府は新年度から府全域での本格的な展開を目指している。

問い合わせは府住宅課TEL075(414)5358。


0コメント

  • 1000 / 1000