#生活困窮者の保護費を搾り取る貧困ビジネスの暗闇

2017年2月1日 藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事

生活保護受給者向けの宿泊施設を埼玉県内の複数箇所で運営していた宗教法人に対し、さいたま市が1月26日、新規入居者受け入れと施設の新規開設を禁じる行政処分を出しました。

いわゆる「貧困ビジネス」に対する、条例に基づいた規制です。

私たちのNPO法人「ほっとプラス」もこれまで入居者の相談に応じ、また県やさいたま市に対応を求めていました。


東京の路上生活者を勧誘して埼玉の施設に収容

 行政処分を出されたのは、さいたま市岩槻区や川口市などで、路上生活者を収容する宿泊施設を運営している宗教法人「善弘寺分院宗永寺」(東京都足立区)です。


 宗永寺は2006年ごろから埼玉県内に低額宿泊所を開設し始め、主に東京都内で勧誘した路上生活者を入居させています。

届け出されているさいたま市内の施設は次の通りです。


(1)宗教法人善弘寺分院宗永寺岩槻寮=岩槻区大字浮谷1489の1

(2)美園寮 =岩槻区大字釣上新田1478の1

(3)掛寮=岩槻区大字掛460の3

(4)豊春寮 =岩槻区大字表慈恩寺959の1

(5)鹿室寮=岩槻区大字鹿室1152の1


 ある日、宗永寺の施設で暮らすある男性が「ほっとプラス」に相談に来ました。


 「施設も食事もひどくて退去したいが、手元にお金が残らないので出るに出られない。どうしたらいいでしょうか」というものでした。

 仕組みはこうです。

路上生活者を入居させた後、宗永寺職員が役所に同行して生活保護を申請させます。

同時に、宗永寺と入居者の間で金銭管理契約を結びます。

宗永寺は毎月の保護費支給日に、マイクロバスなどで入居者を役所に連れて行き、受給した生活保護費をその場で袋ごと回収します。

この保護費で施設を運営し、利益を上げていると見られます。


劣悪な施設で受給者を囲い込み

 男性の話を聞いて、実際に施設の部屋を見に行きました。

施設はさいたま市郊外の岩槻区の民家や畑、工場が混在する地域にひっそりと建っていて、一見すると工事現場の宿舎のような雰囲気です。

2階建ての建物の中に2~3畳程度の小部屋がいくつもあり、入居者が生活しています。

 風呂トイレ共同の建物1階に食堂があり、1日朝夜2回食事が提供されていましたが、揚げ物1品にご飯、みそ汁といった貧しい内容の食事で、栄養が行き届くようなものではありません。

タオルなどの生活用品はすべて有料です。


 入居者に平日500円、休日1000円のお金を渡し、あとは宗永寺側が管理します。「金銭管理ができない人に代わってお金を管理し、食事も部屋も提供している」という名目です。

実際、入居者から印鑑や生活保護受給者証を預かっています。

月平均12万円程度の生活保護費のうち、本人に渡るのは2万~3万円。

住居費や食費、光熱費などの名目で残りを宗永寺側が手に入れる仕組みです。


 狭い部屋と貧しい食事をあてがわれ、生活保護費の大半を入居費用として徴収されるため、まとまったお金が手元に残らない入居者は出ていくこともままなりません。

生活困窮者を劣悪な環境に囲い込み、生活保護費を手に入れる「貧困ビジネス」の典型です。


 「食事はひどいし部屋には虫がたくさん出る。人が住む所じゃないが、行くあてもない」という男性に付き添い、市内のアパートを探しました。

一方、「ここを追い出されたら路上に戻るしかない。

行くところがないのであまり騒がないでほしい」という入居者も多くいました。貧困と路上生活者がなくならない限り、貧困ビジネスもなくなりません。


規制強化が入居者を路上に追い帰すジレンマも

 生活保護費支給日に入居者を集団で役所に連れて行き、役所の面前でおおっぴらに保護費を回収する光景は、異様でした。

しかし、入居者が自発的に金銭管理契約を結んでいる限り、自治体の介入は困難でした。

 本来、生活保護費は本人が受け取り、管理し、自立に役立てるべきお金です。その制度をビジネス化した事業者が全国ではびこっています。

 福祉関係者やソーシャルワーカーから対策を求める声が上がったことを受け、さいたま市は13年10月、貧困ビジネス事業者を規制する条例を施行しました。

市への届け出と、入居者に渡す金額や契約解除条項を定めた金銭管理契約書の写しを、入居者に渡すことなどを事業者に義務づけています。

さいたま市は今回、指導に対して改善が見られなかったとして、宗永寺に対し新たな利用者入居と、新たな施設開設を禁じる処分を出しました。

 しかし、宗永寺は川口市でも同様の施設を運営しています。

16年4月には、川口市の福祉事務所敷地内で生活保護費を回収する様子を取材していた報道機関の記者に、宗永寺の複数の職員が「写真を撮ったな、カメラを出せ」などと大声を出しながら暴行する事件があり、職員が現行犯逮捕されました。

しかし、川口市に規制の動きはありません。

 さいたま市生活福祉課によると、16年11月時点で、さいたま市内の届け出施設は74施設。

また、宗永寺の5施設には17年1月1日時点で224人が入居しています。

 その多くは稼働年齢層で、入居以前は路上で生活しており、生活保護を受給すらできていませんでした。

貧困ビジネスの事業者が彼らに住む場所を提供し、生活保護を受給させているのは確か。

施設を閉鎖させても、入居者は路上に戻るだけで問題は解決しません。

 生活困窮者への社会の正しいアプローチと、その後の丁寧なケースワークで、貧困をビジネス化させないことが必要です。



<生活保護費搾取>「貧困ビジネス違法」地裁が賠償命令

毎日新聞 3/1(水) 19:43配信

「貧困ビジネス」で生活保護費を搾取されるなどしたとして、さいたま市の男性2人が宿泊施設の経営者などを相手に保護費の返還などを求めた訴訟で、さいたま地裁は1日、経営者に計約1580万円の支払いを命じた。

2人が経営者側に保護費を渡す代わりに居室などの提供を受けるとして結んだ契約について、脇由紀裁判長は「公序良俗に反し無効」と述べた。

原告側弁護団によると、貧困ビジネスの違法性を認めて賠償を命じた判決は初という。

 判決によると、男性2人は2005~10年、経営者が運営する同市の宿泊施設に滞在。契約に基づき、保護費全額を経営者側に渡す代わりに小遣いや食事や衣服の提供を受けた。

この間、1人は経営者側に計約38万円を渡していたが、小遣いは計約8万円。

もう1人は計約691万円を渡していたが、計約163万円しかもらっていなかった。

 脇裁判長は、2人の生活実態について「(居室の)プライバシーは確保されず、(支給された食事も)安価で栄養バランスも著しく欠くなど、相当に劣悪。

(経営者には)最低限度の生活を営む利益を侵害した不法行為が成立する」と指摘。

小遣い分を除いた保護費の返還や慰謝料支払いのほか、1人については経営者に指示された作業で指を切断したとして賠償も命じた。

 この経営者は14年に所得税法違反(脱税)で起訴され、翌年にさいたま地裁で執行猶予付きの有罪判決を受け、確定している。【内田幸一】


[MV] Paul Kim(폴킴) _ Me After You(너를 만나)


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