「 #口座凍結 」の恐怖と対策 【 #老後 】

ダイヤモンド・オンライン 7月28日(木)8時0分配信

「大変! お父さんのお金が引き出せないのよ。銀行の人がいうには、口座はしばらく凍結されるんですんって。ほかの口座もみんな使えないわ。どうしたらいいの」

親父の口座が凍結!?  家族の大切な財布なのに!? ――頭が真っ白になってしまった。



● 名義人の死を伝えてはいけない? 


新聞死亡欄や人づてなどで名義人の死亡を知ると、銀行はただちに口座の凍結をおこなう。

家族が銀行窓口に行き、「名義人が亡くなったので、代りに私が預金を引き出したいのですが」などと言ってしまった場合も同じだ。

凍結が行われ、預金が動かせなくなると、あれこれやっかいな問題が生じることになる。

生活費を引き出せないだけでなく、公共料金、家賃や駐車場代、ローンなどすべての引き落としがストップしてしまう。

そのまま滞納が続けば、電気やガスなどのインフラすら使えなくなる、という悲惨な事態に陥りかねない。


多額の出費を迫られることもある。

 父親は1年前にガンを発症し入院していたが、ここのところ容態が急速に悪化している。

医師から危篤を告げられたとき、混乱する頭の隅で考えたのは「医療費はどうしよう」ということだった。

 なにしろ通帳や印鑑のありかもわからない。

たとえ発見したとしても、口座が凍結されてしまえばお金を引き出せなくなってしまう。

入院の連帯保証欄にはノリコさんの名を記入していたため、本人が支払えなければ、ノリコさん宛の請求書が届くことになる。

 病院の会計係に問い合わせると、個室に入院していたこともあって、先月分だけで87万円かかっていた。

今月分と合わせるといくらになるのか――。

へそくりだけでは、とうてい支払い切れそうにない。


● 凍結解除に7年かかったケースも

 家族が困ることをわかっていながら、銀行はなぜ口座を凍結してしまうのか? 

 「預貯金は相続資産の一部。たとえ必要に迫られた場合であっても、本人以外の人が引き出すとトラブルのもとになります。ですから名義人が亡くなったことがわかると、銀行は即座に口座を凍結し、相続手続きが完了するまでは、一切引き出すことができないようにするのです」

 こう説明するのは、相続問題に詳しいファイナンシャルスタンダード代表取締役社長の福田猛氏。

 問題は相続手続きが意外と手間取ることだ。

 「遺産分割協議書を作成するには、相続人全員の実印が必要。

中にはどうしても連絡が取れない人もいるかもしれません。

仕事が多忙だったりして手続きが進まない場合もあるでしょう。

また、遺言書を書いていないケースでは、どう分けるかで揉め、なかなか手続き完了に至らないこともあります」(福田氏、以下同)。

 その間、亡くなった親のお金は使えず、周囲が立て替えたお金を清算することもできないわけだ。解決までに7年かかったケースもあるという。


● 「親の代わりに資産運用」はNG? 

 親に万が一のことがあれば、証券口座もまた凍結される。

この場合の「万が一」というのは必ずしも死亡だけをさすのではない。

たとえ身体は健康でも、認知症などで判断能力を失った場合も同様の措置がとられる

 「お父さんが株を持っている会社、トップが不祥事を起こしたらしい。まずいぞ、早く売却しなくては」


 そんなときも口座が凍結されている限り、一切売買できない。

「父の代わりに私が運用しますから」などと主張したところでムダである。


 「本人以外の人間が売買することは仮名取引、借名取引といって禁止されています。

わかれば即、取引停止となることもあります」(福田氏)


 もっとも、「成年後見制度」を活用すれば話は別だ。

認知症となった高齢者などのかわりに成年後見人を立て、資産の管理を行える制度だ。

ケースバイケースだが、家族が成年後見人になることもある。

ただし、この場合も株の売却ができなくなるなど、制限がかかったりする。



● 口座が凍結する前にすべきこと(1)


 では、親の口座が凍結される前に打てる手はあるのだろうか? 

福田氏は2つの方法を提案する。


1つは親に生命保険に入ってもらうこと。

 「保険金は受取人固有の財産で、預金のように凍結されることはありません。

また保険金は、請求後、だいたい3日から1週間で振り込まれますから、葬儀費用のほか当座の支払いに充てるにはよいでしょう」


 なお、法定相続人以外に受取人を指定することも可能。


 預金から毎月、保険料を支払えば相続すべき財産が減る。

さらに、生命保険の受取金には相続税の非課税枠が設けられているため、受け取った金額が非課税の範囲なら、相続財産には加算されない。


 非課税枠は、相続人ひとりにつき500万円。

たとえば妻、長男が相続人なら、500万円×2人で1000万円、妻、長男、長女なら500万円×3人で1500万円まで、非課税で保険を受け取ることができる。

相続人以外に受取人を指定することも可能だ。


● 口座が凍結されるまえにすべきこと(2)


 もうひとつの方法は、あらかじめ親に“借金”しておくことである。


 「たとえば親の預金から、前もって500万円を預かります。

そして、介護費用や医療費、葬儀費用、親の生活費などにそのお金を充てます。

このとき、必ず領収書を取っておき、相続の際、残りのお金とともに清算しましょう」


 なお、まだあまり一般的ではないが、「家族信託」も遺言書に代わる方法として目下、注目されている。

親の預貯金や株、債券、不動産などの資産を運用、管理する「受託者」を家族で決めることができ、スムーズに財産の承継を行えるようにする、というものだ。

受託者と受益者(財産の運用、管理により利益を得る人)は同一人物でもよいため、家族の誰かが委託者になることもある。


 相続が順調に行われれば、口座凍結問題も早めに解決できる。

認知症の親の証券口座も適切に管理できそうだ。


 「まだ数はあまり多くありませんが、最近は信託銀行が受託者となる家族信託商品も登場しています。今後増えれば、選択肢の幅も広がるのではないでしょうか」


 もちろん、銀行が親の死を知らず、口座凍結を免れられることも多い。

だが、亡くなる前後に口座からお金が引き出されていれば、

 「お父さん、このときは意識を失っていたはずよ。お兄ちゃんが勝手に引き出して自分のお小遣いに使ったんじゃ? 」

 など、あらぬ疑いをかけられる可能性もないとはいえない。

後々のトラブルを防ぐためにも、親が元気なうちに対策を立てておきたい。

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